『WIRED』発行記念 オープンミーティング:参加メモ
1年ぶりの復活。発売を記念して、松島編集長自らが全国行脚。その京都会場に参加しました。
場所は観光客賑わう岡崎エリア、ロームシアター京都。
東京・大阪会場はトークセッションですが、京都はオープンミーティング。「テクノロジー×ライフスタイルの未来」というテーマで、松島編集長、小谷副編集長はじめ 3名の編集スタッフの方々と参加者とでディスカッションを行います。
参加者同士の自己紹介で軽くアイスブレイクをした後、復刊に至る変遷をトレース。その後、本の内容を紹介しつつ、参加者の質問にも都度応える。最後は参加者の感想をシェアするといった内容でした。
質問がしやすい雰囲気作り、質問一つ一への丁寧で分かりやすいコメント。そのおかげで、WIREDがどういう雑誌で何を目指そうとしているのか少し理解が出来た気がします。
加えて、今後テクノロジーによって引き起こされる社会の変化をどう捉えていくのか、といったマインド的な観点でも気付きがあったイベントでした。
“雑誌”だから表現できること(雑誌を機軸にした新しい体験の提供)
WIREDの変遷トレースの流れで、「このタイミングで雑誌を出すことの意味」についてお話がありました。
紙の枠を超える(紙媒体の実験)
会場スクリーンに映し出されているのは、WIREDリブート号の表紙にデザインされている地球。
本物の地球の画像をアルゴリズムを駆使してジェネレートしたもの。これがくるくる回ります。
書店では平面に切り取られた地球を目にし、会場に足を運ぶと回転する地球を見ることができる。さらにこれがSNSなどで発信されると、より多くの人がこのデザインを目にする。
個人がインターネットに常時接続している現状において、メディアは横断的に繋がり、これまでの紙媒体とは違う体験を提供できる。
フィジカルな面白さ
例えば、目次ページのデザイン。
実はこれ、別ページのケヴィン・ケリーの写真をアルゴリズムでジェネレートしたもの。
『〈インターネット〉の次に来るもの』の著者(!)
このようにページを行ったり来たりすることで得られるフィジカルな楽しさは、Web雑誌では完全には再現できない。
ちなみに、アルゴリズムは「自然」がベースになっています。
これは「紙とデジタル」の融合であり「テクノロジーと自然」の融合でもある。
WIREDはただのテック雑誌ではなく、テクノロジーを使って未来をどう変えるのかをテーマにしている。そういう意味で、地球や目次のデザインはWIREDが目指していることを象徴したものである、とのこと。
ニューエコノミー
リブート号のテーマは「ニューエコノミー」。実はこの言葉、90年代に流行したものです。
ざっくりとはインターネットの登場で何でもコピーできる時代になり、資源がなくてもモノが生み出せる新しい経済形態になるというもの。
ただ、2000年代にドットコムバブルが弾け、「ニューエコノミー」は無かったことになってしまった。
一方で、そこから十数年経った今現在、世に広まっているテクノロジーは、実は20年前の「ニューエコノミー」の中で言われていたことを実現したものばかり。
ここから分かるのは、社会を変えるテクノロジーは十年単位の長期間の時間軸が必要であるということ。
WIREDはこういった、社会を動かすテクノロジーをキャッチし発信したい(毎年変わるテクノロジーのトレンドを伝えるような雑誌ではない)。
なので、今一度「ニューエコノミー」を捉えたうえで、次に起こることを考えるべく、リブート号のテーマをそれにしたそうです。
社会をアップデートする動き
雑誌の中で掲載されている事例について、紹介がありました。ここでは、その中からいくつかピックアップします。
プラットフォーム企業の独占をアップデートする「コーポラティヴィズム」
テクノロジーの発展により人々の生活はより良くなり、自由になった...と思いきや、例えばGAFAのような一部のプラットフォーム企業が富を独占し、全ての人々が自由になったとは言い難い。
この課題を解決し得るものの1つが、コーポラティヴィズムという思想。
参加者がプラットフォームを所有するというもので、例えば Uberであれば、ドライバーの給与を決めるのは経営者ではなくドライバー自身が決めるべきだと唱えるもの。
世に根付くダイバーシティ意識の欠如
起業資金を得るにはVCの支援はかかせない。しかし、シリコンヴァレーをはじめとするVCの投資先の90%は「ある程度財力があり、特定の大学を卒業し、特定の場所で働く白人男性」によって占められていたのだ。
『WIRED 2018 VOL.31 』P111
一部の人間以外、打席に立つことすらできない。特に有色人種やLGBTQといった人たちはなおさら。
この現状をアップデートするために設立されたのが『Backstage Capital』。女性や有色人種、LGBTQとった人々へ投資するVCです。
ファウンダーのアーラン・ハミルトン自身も女性で、有色人種で、レズビアン。これまで「見過ごされたきた人々」の一人あり、そのような人たちも含め、
全ての人に「極上のワンショット=失敗を恐れず挑戦を楽しむ場」を提供するという目標を掲げている
『WIRED 2018 VOL.31 』P112
“限界費用ゼロ社会” の到来
ざっくりとはモノを増産する時のコストがゼロになる社会のこと。
限界費用(げんかいひよう、英: marginal cost)とは、生産量を小さく一単位だけ増加させたとき、総費用がどれだけ増加するかを考えたときの、その増加分を指す。
テクノロジーの発展によって、モノを増産する時のコストがゼロになる社会がくる。松島さん曰く「エネルギーも今後ほぼ無料になる」とのことでした。
少し話は逸れますが、同じようなことを最近よく参加している Singularity University でもよく耳にします。具体的に2030年にはエネルギーがほぼゼロで取引されている社会になっている。指数関数的に発展するテクノロジーによって、あらゆるモノのコストが下がる一方でパフォーマンスが上がる現象が起きるという話がありました。
違う場所で同じような話を聞くと、一気にそのことが身近に感じられるから不思議(←単純)。
オープンミーティングに参加して
テクノロジーの発展より、社会は大きく変わろうとしている。改めてそのことを感じたイベントでした。
この変化の中を生きていくうえで、大切だと感じた 3つのことを記載します。
積極的に情報を集め、疑い、判断する。
世の中に溢れる情報にどう接していけばいいのか?という学生さんの質問に対して、小谷副編集長が仰っていたこと。「全ての情報にはバイアスがかかっている」というもので、例えば、AIは最適解を提示してくれるように思いがちだが、実は解の元になるデータはある一定層の白人男性からしか取得したものでしかない(これも Singularity University で話題に上がっていて、AIが喰っているデータは貧困層のそれはない。そもそもデバイスを利用していないのでデータを取りようがない、という話)。
これはAIを批判する話ではなく、「自分で考えることが大切」ということ。できるだけいろいろな視点で情報を集め「こういうことかな?」と、アタリをつけ続ける。間違った判断をすることもあるけれど、そういったトライアンドエラーをし続けることが大切というお話でした(小谷副編集長曰く、「WIREDがそのきっかけになれたら...」)。
「個人」の重要性
これはイベントの中で出たことではなく、今回のイベントで改めて認識したこと。
正解がない世の中でどう生きていくのか。世の中のムーブメントは、自分とは遠く離れたどこか(大きな力?)で起こっているようだけど、そうではない。
例えば「コーポラティヴィズム」に象徴されるように、意思決定主体が「個人」にシフトしていく流れは確かにあって、(少し前に流行った本ではないですが)自分自身がどう生きるかが問われる状況だな、と改めて。
そのような現状において、重要なのが「オプティミズム(楽天主義)」ではないか。
松島さんのお話にもあったのですが、未来に対して「何となく不安...」と思考停止するのではなく、まずは未来は良くなると考え、課題をきちんと捉え、取り組む。
世界にはこのマインドで具体的にアクションを起こしている人たちがいることをしっかり理解する(WIREDはメディアとしてそういう人たちを紹介していく)。
課題に直面した際の思考停止は「あるある」だと思うし、そういう意味では「オプティミズム」はテクノロジーに関わらず、生きていくうえでの大切なマインドであり、その視点を持ったうえでWIREDを読むと、感じ取ることもいろいろ変わってくるのだろうなと思いました。
「SingularityU Kyoto Chapter Casual Meetup #2」参加メモ
英語メインのイベント、英語聞けずが懲りずに参加。
SingularityU Kyoto Chapter Thursday Night Casual Meetup #2
SU=Singularity University(シンギュラリティ大学)とは
「University」とありますが、大学ではありません。創設者はレイ・カーツワイル氏とXプライズ財団CEOのピーター・ディアマンティス氏。
10年間で10億人の生活をより良くすることをテーマに、スタートアップ支援プログラムや大企業のコンサルティングなどを手がける団体。
大きなことを進めるためにはたくさんの人を巻き込まないといけない。
ということで、SUの本部はシリコンバレーにありますが、世界各国にコミュニティが存在します。
日本には、東京、京都、沖縄に拠点があります。「Chapter」とは、ざっくりとは“拠点”のこと。京都拠点がKyoto Chapterと呼ばれます。
Future of Transportation
今回のテーマは「交通の未来」。
Global Summit 2018の「Exponential Transportation」(Amin Toufani氏)のプレゼンを解説付きでトレースしつつ、参加者同士で緩く熱くディスカッションしていきます。
英語のプレゼンのため、私は全く聞き取れないのですが(悲)、要所要所で入れていただく解説で拾った言葉は以下の通り。
複数の処理が一瞬で終わる
ブロックチェーンの技術を使って車同士でコミュニケーションが取れ、エコノミーが成立する。
例えば、ドライブ中に急ぐ後続車があるシチュエーション。後続車に道を譲ると、謝礼が受け取れるようになる。
これは、与信と送金が一瞬で成立しているのがポイントで、今まではそれぞれ別々に処理され、しかも手間やコストがかかっていた。これが一瞬で出来るようになる。
エネルギーのコストは限りなくゼロになる
指数関数的に発展するテクノロジーのおかげで、2030年にはエネルギーはタダ同然で取引されるようになる。
コストは下がる一方で、パフォーマンスは上がる世界が実現する。
(なぜコストが下がるのかのロジックは理解できませんでしたが)ビジネスを立ち上げるうえで、このことが念頭にあれば、例えば「今はダメだろうけれど3年後ならどうだろう?」ということも考えられ得る。
この未来を予測できる・できないとでは、ビジネスのアプローチも変わってくる。
コラボレーションからコーディネーションへ
車同士でネゴシエーションしているのが現在。渋滞や事故はネゴシエーションの結果。
今後、これは「コーディネーション」に変わっていく。
例えば交通渋滞。車同士のやりとりではなく、交通網全体でコーディネートされるような、オペレーションシステム(OS)が生まれ、それが世に広まる。
ネットワークエフェクト
利用者が増えれば増えるほどサービスの質があがること。例えばテスラは自社の技術をオープンソース化。このことで、自動運転技術のさらなる発展・質の向上を目指し、結果ユーザーの獲得を実現する。
世の中にサービスを広げるうえで、有効なアプローチ。
ユニバーサルベーシックインカム
事故や渋滞がなくなると、世界のGDPが下がる(※実際に事故や渋滞にはそれだけのコストが支払われている)。
それを補填する観点で、最低限の生活を保障するユニバーサルベーシックインカムが有効(なのではないか)。
Global Impact Challenge (GIC) WinnerのSofia Couto da Rocha氏がリモート参加
「交通」のテーマから逸れますが、SU卒業生・Sofia Couto da Rocha氏がポルトガルからリモート参加することに。
皮膚癌をスピーディーに判断できるアプリを開発しているベンチャー企業。
皮膚癌は対処方法は確立されているが、発見の遅れにより対処ができないことが多い。
そんな中、手軽にすぐに皮膚癌診断ができるこのアプリのインパクトは大きい。
きっかけは「偶然」
女医でありサーファーでありデザイナー経験もある彼女。ひょんなことからSUのピッチコンテストのことを知り、応募したところ受賞。SUへの参加権をゲット。
ただ、SUのカリキュラムを受けるためには2ヶ月シリコンバレーに行く必要がある。
すでに仕事をしていため、2ヶ月の時間捻出は現実的では無い。そんな中、「このチャンスだ」と仕事を辞め、SUに行くことを決断。
SUのカリキュラムを受け、AIと医療を掛け合わせたヘルステックベンチャー「skinsou」を設立。起業家として活躍しています。
SUのカルチャー
「10年で10億人の人の生活をより良くする」を標榜するコミュニティだけに、とにかくぶっ飛んでる。
(ある人が見ると)とてもバカげたことだけど、それを本気で実現しようとしている夢追い人ばかり。
周囲にいる人たちもそれを全肯定・全力でサポートする。既成概念なんてない(※彼女は「箱が無い」という言葉で表現していました)。
そんな環境に2ヶ月身を置くと、否が応でも価値観が変わる。
最後に
何度か参加している SUですが、参加するたびに感じるのが「熱狂」「個人」「共感」(「テクノロジー」は前提)といった言葉。
とあることに熱狂している人たちが世の中には存在していて、それは大企業や有名大学といった団体ではなく「個人」で始まり、どんどん周囲を巻き込んでいく。
その個人の近くには、“想い”に共感し全力で応援・支援してくれる仲間がいる。
「自分の熱狂ポイントは何だろう?」参加するたびにそんなことを考えたくなるし、仕事を離れ、外で活動するたびに「個人として何をやりたいのか?」を言語化する重要性を感じます。ゆるゆる整理しよ。
▽参考:#1の参加メモ
「カンブリアナイト」というカオスなイベントに参加した話
テクノロジーをアテに新しモノ好きな人たちが集まる飲み会。一度参加するとクセになること必至なイベントでした。
カンブリアナイトとは?
ざっくりとは、モノを創る人と、サービスを創る人とを緩く結びつける場。
現在、様々なものがセンシングできる世の中。
それにより、以下のようなことが起こる。
①センシングによって全ての物事がデータ化(可視化)される。
②データは解析され、意味をもった情報になる。
③その情報が価値を持ち、サービスが作られる。
④多くの人々がサービスを利用し、より良い生活を送る。
この一連の流れにおいて、モノを創る人たちは①②に特化し、③までカバーできないことが多い。
一方で④エンドユーザーの近くにいる③の人たち(サービスを創る人たち≒テクノロジーとエンドユーザーの間に介入する人。テクノロジーを “サービス” というかたちで翻訳する人たち)は、開発の近くにいないため、最新のテクノロジーを知らない・十分に使えていないことが多い。
この両者を繋げる場所が「カンブリアナイト」。
例えば「基礎体温」というデータでも、介入者が変わればサービスの形は変わる。
何故飲み会なのか?
「最新のテクノロジー」とか「サービス展開」みたいな話をすると、どうしても固くなになったり凝り固まったりして(企業規模など色々な)制約の中で話がなされてしまう。
そうならないために最初から「飲み会」というかたちをとり、フラットでオープンな場を作っている。
名前の由来
主催者・新城さんのブログから引用。
カンブリアナイトとは、約5億5千万年前の生物の多様性が爆発的に増えた「カンブリア大爆発」に由来しています。カンブリア大爆発は、動物が眼を手に入れたことによって後押しされたのではないか、という説があります。
冒頭でセンシングの話をだしましたが、カンブリアナイトでは、センサーは現代テクノロジーが生み出した「眼」だと捉え、動物が眼を手に入れて「カンブリア大爆発」が起こったように、センサー技術によってサービス進化の多様性が爆発的に増えることを目指しています。
カンブリアナイト17京都
いつもは東京での開催が中心ですが、今回は京都。“1,000円で飲み放題” を謳っていることもあり、無償提供いただける場所で開催しています。今回は「京都高度技術研究所 ASTEM/RI KYOTO」さん。
3名の登壇者
以下、イベントページから引用
1)睡眠領域:眠りからこどもたちの可能性を呼び覚ます「Peels」
山下福太郎さん(NTT西日本 ビジネスデザイン部 Peels代表)
中学生になると生活が社会性を帯びて夜更かしになっていく。睡眠の質の低下による生活パフォーマンスの劣化を防ぐ、こどもたちの未来のための睡眠支援サービス。その仕組みとパートナー企業との営みを紹介。
2)香り領域:香り制御技術の活用可能性
金東煜さん(株式会社アロマジョイン 代表取締役)
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)発の、香りをデジタル化し、言葉、画像、音声に加えて、香りのコミュニケーションチャネルを作り出すことを目指すベンチャー。香りが人々の記憶に残っていく世界をつくりだす
3)医療領域:医療領域:整形外科×VR/MR
成田渉さん(亀岡市立病院 整形外科 脊椎センター長)
カンブリアナイト大阪のプレ開催時にも衝撃のプレゼンしていただいた整形外科医の再登場。今回は、実際のデータを用いたVR/MR体験も。実際の医療の現場で、VR/MRがどのように活用され、どのような効果を生んでいるのか。その事例を紹介。
どれも興味深いお話でしたが、個人的には睡眠領域がツボにはまりました。
そもそも眠らない人はいないこと、また「働き方改革」や「生産性の向上」が叫ばれる昨今、スポットライトがあたりやすいテーマであること。あとは最近個人的に歳を感じるシーンが多く徹夜ができなくなった事情もあり、興味深くお話を伺いました。
はじめて参加してみて
会の冒頭、新城さんのお話で「いきなりビジネスの話をすると足元だけに視線がいってしまう。それだといけない。」「まずはカジュアルににフィクションを語りつつ、それをノンフィクションにしていければ」というコメントがありました。
飲み会という体もあり、登壇者含めた参加者の話しは、どれも少し先の未来を見ていたように感じます(いや、ただの酔っ払いの戯言かな(笑))。
モノが溢れ何が売れるか・何が世に受け入れられるのか分からない時代。
加えて、国・都市・企業・個人レベルで不確実性は高まっている。
そんな中、エースにぶら下がる時代は終わり、集合知で戦う時代に。
そんな環境において、カンブリアナイトの「フラット」「テクノロジー」「違う領域間の交流」というキーワードはいまの気分感を捉えているし、実際に参加してこの空気感を肌で感じるだけでも、非常に意味性のあるものだと思います。
...とは言え、正直なところ楽しすぎて中盤から飲み中心になり、聞いた内容はあまり覚えていないのですが(笑)、次の関西会も参加しカオスな空気に浸りつつ、そこに集まるヘンな人たちと少し先の未来に視点を向けた話をしてきたいと思います。
「oikazeごはん〜秋の会〜」に行ってきました
oikazeごはんとは
株式会社おいかぜさん主催の、お食事+トークイベント。2018年は株式会社坂ノ途中さんをパートナーとした、4回シリーズ構成。今回はその3回め。
旬の野菜を使ったおばんざいと、坂ノ途中代表・小野さんとおいかぜ代表・柴田さんのお野菜トークというコンテンツでした。
株式会社おいかぜ
京都(西院)に本社を置く、Webデザイン・構築・インフラ運用まで幅広く手がけられるIT企業。一般的な企業に加え、京都精華大学といった教育機関にもクライアントを持つ会社さんです。
株式会社坂ノ途中
「100年先も続く、農業を。」をテーマに農産物の販売を行う会社さん。
一番の特長は、坂ノ途中さんで扱う農産物は、新規就農者の方が手がけられたものがほとんどであること(なぜ新規就農者なのか?これはとても良いエピソードなので、ぜひおいかぜごはんに足を運んで小野さんから直接聞いてほしい)。
おいかぜマルシェ
会場には物販コーナーも。oikazeごはんのチケットには、マルシェで使える500円割引券がついています(お得!)。
▽きものシェアクローゼット&サロン 水端
http://mizhana.com/
レンタルではなくシェアクローゼット。きものを楽しみたい、試してみたい人向けに、きもののシェアリングや着付けのフォロー、お悩み相談まで。
▽Maker
https://www.makerkyoto.com/
西院にあるレストラン。「メープルとハーブのスコーン」おいしくいただきました。
▽Take a nap Crackers
https://www.facebook.com/takeanapcrackers/
京都ローカルなあられを販売されているお店。パッケージもネーミングも秀逸。贈り物にも喜ばれそうです。
あとはもちろん坂ノ途中さん。トーク後には小野さんもふら~っと店先に立たれてて、来店者とお野菜トークをされていました。
oikazeごはんスタート
バイキング形式でおばんざいが楽しめます。メニューは1つ1つ、坂ノ途中スタッフさんにご説明いただけます。どれもおいしいものばかり!(心なしかいつもり噛むスピードが遅く、回数が多かった気がするのは、おそらく野菜の歯ざわりや味の余韻を楽しんでいたからなのか?)。
お野菜トーク
小野さんと柴田さんのお野菜トーク。これ、むちゃくちゃおもしろいです。これを聞けば、きっと野菜に興味を持ちます。
しいたけの話
栽培方法について
「ひょこ」っと傘を生やすしいたけ。あの傘が出てくるのは、木や菌床(※後述)に菌が行き渡り、「この木は菌でいっぱいになったし、次の木を探すか」と、胞子を飛ばすために「ひょこ」っと傘を出す。
栽培方法は大きく2種類。「菌床栽培(きんしょうさいばい)」と「原木栽培(げんぼくさいばい)」。生えてる場所が「菌床」なのか「原木」なのかの違い。
菌床栽培
菌床(オガクズなどの木質基材に米糠などの栄養源を混ぜた人工の培地)でキノコを栽培する方法。
原木栽培
天然の木を用い木材腐朽菌のきのこを栽培する方法で、伐採し枯れた丸太に直接種菌を植え付ける方法。
世に流通しているしいたけのほとんど(9割?)が前者でつくられている。後者に比べると菌の行き渡るスピードが速く、木よりも軽く管理もしやすいため大量生産に向いている。
一方で、後者の方が美味とされています。小野さん曰く、(極端めに言うと)キノコの味は栽培期間に比例する。なので、原木でゆっくり時間をかけて育ったしいたけの方が美味しい。
菌の種類の話
しいたけの菌は「腐朽菌(ふきゅうきん)」。木を分解する菌。これがないと木は土に返らない。
木材腐朽菌 - Wikipedia
木が分解されず残り続けると石炭になるのだけれど、しいたけがこの世に誕生していなかったら地球は石炭だらけになってたとか(!)
他にも「菌根菌(きんこんきん)」があり、これは木を分解するのではなく共生する。この共生関係が人工的には作り出しにくい。例えば松茸などが菌根菌。
みかんの話
新規就農者は資金が足り苦しい。広い畑を確保するのが難しいので、比較的狭い面積で収益のあがるものを育てることになり、“野菜”が選ばれることが多い。
畑1反(300坪)あたりの収入を「反収(たんしゅう)」といって、反収がどれだけ上がるかがかなり重要。
ちなみに、反収が高いのはイチゴ。
ただ、イチゴだとビニールハウスなどの初期投資が必要だったり収穫には多くの人手を必要とするなど「経営」的な手腕が必要になるため、それはそれで参入障壁がある。
(少し話しは逸れて)お米は反収が低い。野菜と同じだけの収入を得ようとすると、広大な土地が必要。
そんな状況にもかかわらず、お米を栽培する人は減らない。
理由は、耕作放棄地がたくさんあって、土地が安く手に入る。しかもすぐに収穫できるような状態で。
なので、畑を買って潰して・買って潰してを繰り返すような輩(※意訳)も出てきているそう(「畑の居抜きですね」とは柴田さんのコメント。上手い表現だなぁ)。
話しを戻して「みかん」について。
みかんを育てるうえで重要なのは「水はけが良いこと」「ある程度日当たりが悪いこと」。
これを満たす条件が、山あいの斜面。
実はこの山あいの斜面にみかん畑を耕すのには他にも意味があって、斜面の畑は獣と人間との境界線の役割を果たすそうです。
そのため、みかん畑がなくなると獣が人里に降り、田畑を荒らし、ますます耕作放棄地が増えてしまう。
持続的な農業を目指す坂ノ途中さんにとっては、そういう意味でもみかん畑を耕すことの意味性がある。
野菜とみかんを育てる「二拠点農業」の提案
農産物には収穫できる時とできない時がある。夏は収穫できるけれど冬は収穫できない。あるいはその逆。そういったことは、農家あるある。
「それぞれを組み合わせると年間を通して収穫ができ、農家さんの収入が安定するのでは?」と目を付けたのが坂ノ途中さん。
夏は野菜・冬はみかんといった、季節によって畑を変える「二拠点農業」が実現すれば農家さんの可能性は広がる。坂ノ途中さんはそんな想いを実践し、検証されています。
お野菜トーク・質問コーナー
会場の参加者との対話を重要視しているこのイベント。小野さん・柴田さんへどんどん質問できます。
私は2つ、質問させていただきました。
なぜ「おいかぜ」はoikazeごはんをしているのか?
同業の私としては、なぜおいかぜさんがこういった食のイベントを開催しているのかに興味がありました。
いただいた返答は、ばっくりとは「自社コンテンツの運営」であると。
初期のイベントはもっと少人数でやっていたのだけれど、そもそものきっかけは、物理的に離れた場所で業務にあたる社員と顔を合わせる機会が減ったこと。
これではいかんと。
ちょうど月1の会議があるので、その時に「みんなでご飯を食べる」ことを始めてみた。
当初は社内の人間だけで開催していたけれど、実際やってみると色々な発見(この子こんなに気が利くんだとか)があったり、何よりも食事中は社員同士フラットで上下関係もなくコミュニケーションをとるうえで有効であることに気付き、少しずつ社外の人への参加も受け入れながら7年ほど運用してみた。
そうすると、「おいかぜさんってご飯の会社ですよね?」と言われるほど知名度があがり、「人に広まるとはこういうことか!」と発見があった。
普段の業務ではクライアントに「コンテンツが大事ですよ」とは言うものの、よくよく考えると自社でコンテンツを運用しているわけではない。
そんな中、いつのまにか世に知られている「oikazeごはん」こそがコンテンツであると解釈し、以来ずっと続けている。
小野さんが「ニガテな野菜」は?
最初は「嫌いな野菜は?」と質問しかけたけれど、そんなものはないだろう、と思い直し微調整。
いただいた返答は「糖度競争のトマト」。
トマトは本来甘みも酸味もあるものなのに、どんどん糖分をドーピング(※意訳)されている。その行為はどうかと思うし、そもそもその土俵で戦おうとすると、設備投資や管理体制の構築が必要になり、坂ノ途中さんでは勝負できない(したくもない※意訳)。
この答えには小野さんのポリシーが如実に現われていると感じました。
というのも、坂ノ途中さんの想いとして、「野菜を食べてそのブレを楽しんでほしい」ということがあります。
季節によって野菜の味は変わる。
例えば夏野菜を秋に食べると、夏に感じた美味しさはないけれど、それはそれで味わいがある。秋になり強いストレスを受けながら育った野菜には独特のクセがあり、その時にしか味わえない美味しさになる。その時々で何かしらの楽しみがある。
夏野菜を秋に食べ、そのクセを味わいつつ、夏の終わりに思いを馳せ、冬への変化を楽しんでほしい。
これはこれで野菜を自然体で楽しむスタンスの一つだなぁ...と思いながらお話を聞いていました。
他の参加者の質問にも歯に衣着せぬトークでお話されていました。曰く、有機栽培の闇の話が10,000個あるとか。全部聞きたいw
イベントに参加して感じたこと
3つくらいあります。
「話者」というコンテンツの強さ
ばくっとは、人から話を聞くというおもしろさ。小野さんのお話は探せばサイトに載ってるし、柴田さんのお話ももしかしたら探せる内容だったかもしれません。
でも、やっぱり直接当事者からお話を聞くと面白い。ちょっとしたしぐさや目配せ、立ち居振る舞いなど、ノンバーバール(話者に対して使う言葉としては矛盾しますが)な情報含め、どんどん話しに引き込まれる。話している人との距離感が近くなり、知らずのうちにファンになっている。不思議な感覚でした。
コンテンツ足るためのネタ
とは言え、誰でもそんな面白い話ができるかというと、そうではない。お二人に共通しているのは「自らの体験」から「自分の言葉」で話されていること。
こういうネタをもってこそ、聞き手を惹き付けることができる。
コンテンツたるための人間性
一方で、色々経験すればいいかと言うとそうではない。上手く言語化できませんが、「あ、この人好き」って思わせる雰囲気(力?)。これが何者なのか...分かりませぬ。
と、いろいろ書きましたが、「直接当事者から話を聞いた方が面白いよ。相性がフィットしたらファンになるかもよ」と、当たり前過ぎることを書いてしまいましたが、これは私の言語化能力の限界で、おいかぜさんのイベントにはいろいろとヒントや気付きが隠されているように感じました。
次は12月。調整して参加したいなー。
『結局、人生はアウトプットで決まる』読書メモ
やや煽り気味のタイトルですが、発見や共感がいくつもある本でした。
この本は、「読む」「聞く」「体験する」ことによるインプットと、「書く」「話す」「行動する」ことによるアウトプットを繰り返すことで、近い将来やってくる「AI(人口知能)が人間の仕事を奪う大量失業時代」に、AIに負けない価値をつくる本です。
「仕事消滅時代」と言われる現在、人はますます一人では生きていけなくなります。人と人を結びつけるもの、それは仕事でもお金でもなく、「さまざまなアウトプットを通して作られる信頼関係」なのです。
著者は、ウィンドウズ95の開発者として、また「日本語とオブジェクト指向」のエントリーでも有名な中島聡氏。
AIが代替できないアウトプット
曰く、アウトプットには「アウトプットもどき」があるので注意が必要。
たとえば、単にネットから集めて来た情報をそのままアウトプットしたり、その事象や上部の感想だけを捉えた「浅い意見」を加えたりすること。ここにあなたの付加価値は存在していません。
ポイントは「生の情報を直接受け取ること」。
この場合の生の情報とは、一次情報のこと。自分から生の情報に触れ、それに基づいた自分なりの解釈をする。
そうすることで日々見聞きするニュースの「流れ」や「つながり」が見え、様々な視点から物事が捉えられるようになる。それにより「その人にしかできないアプトプット」が出来るようになる。
このことについてAIと比較すると、AIは速報性や素早いデータ分析をもとにしたアウトプットはできるが、「情報に自分なりの解釈を加え、わかりやすく伝えること」は不得意。AIにはできないアウトプットが続けられれば、結果、自身のパーソナルブランド(個人の信用)を構築することもできる。
文章は「情報を伝える道具」(でしかない)
「書く」ことに何となく苦手意識を持っている人は多い。その感情を抱かせる原因は、文章は情報を伝えるツールにすぎないということを理解していないから。
その背景には、小学校時代の国語教育がある。例えば読書感想文で求められるのは、小説に出てくるエピソードを適当に選び、自分だったらどう感じるか?どう行動したか?など、登場人物をいちいち自分に投影しながら書く。〆には「面白かった」という感想が量産される。
さらに生徒も「面白かった」だけでは具体性に欠けるといわれるため「○○の時はとてもハラハラした」など、「先生に褒められるためには、どんなことを“感じた”ことにすればいいのか」と、忖度クセがつく。
これだと文章は上手くならない。
そもそも、文章とは感想や感情ではなく、「情報を伝える道具」。
本来なら、筆者の感情や意見を100%排除し、描写力など文章表現自体の技術を磨かせるべきなのです。
ウィットに富んだ表現や美しい文章といった類の表現に関しては、「文学」などの教科に分けて教えるべきでしょう。応用編は置いておき、まずは、その道具を使いこなす技術の習得に専念すべきなのです。
まとめ
本文の中に、こんなフレーズが出てきます。
「自分にしか書けないことを、誰にもわかるように書く」この言葉にこそ、ブログを書くことの楽しみのエッセンスが凝縮されているといえます。
これは本当にそうだなぁと思います。
私もブログはよく書く方なのですが、特にイベント参加レポートを書くときには「自分にしか書けないこと」を志向しています。
意識しているのは、「事実」と「解釈」の両方を書くこと。またこの2つを混同することなくしっかり分けること。
「事実」だけであれば、抜け漏れなく登壇者の話した内容が知れる『ログミー』のようなサービスがあるし、「解釈」だけも何か違う(ウェットすぎてお腹いっぱいというか)ので両方必要。
また、「事実」については、本に書かれているように「自分自身で触れる」ことを大切にしていて、自分で足を運び、体験したことしか書かない。そうすることで書かれている内容の信憑性も高まるし、ある程度自信をもって書ける。また、自分で体験しているからこそ「解釈」の説得力が増す。
...みたいなことができたらいいなと思い、日々精進(即ちまだできていない)。
そんな修行中の身ではありますが、最近ブログ書くと例えばイベント主催者や登壇者、参加者、参加したかったけどできなかった方々から、便利がってもらえることが増えてきました(これが本の中にあった「さまざまなアウトプットを通して作られる信頼関係」なのかも)。
もともとは自分の備忘メモで始めたブログですが、こうやって他人に喜んでもらえるのは、とても嬉しいこと。これからもどんどん書くぞー!
「迷子のコピーライター in 京都 9月9日9つの質問」参加メモ
トリプルナインの日曜は建仁寺へ。
先日、大阪・枚方で開かれた出版イベント後、本を読んでめっきりファンになった日下さんにお会いしたく、イベントに参加。
場所は双龍図で有名な建仁寺。
日下さんとトイレでばったり
汗かきな僕は、外出の際、目的地に着くと着替えることが多い。
午前中の雨の影響か、人ごみの河原町は湿気に包まれ不快感ぱない。その雑多を通り抜け、建仁寺に着いた時にはすでに汗だく。
座禅で肩をばちこーん!いかれる棒(たぶん)
一番に会場入りし受付を済ませ、一目散にトイレに駆け込みささっと着替え。
トイレから出ると廊下に何と日下さん。私のことは気付かないだろうと思っていたところ、嬉しいこともお声をかけていただきました。
むちゃくちゃ嬉しかった。
つい先ほどまで流れ出る汗と絶え間ない湿度に舌打ち百連発だった不良な僕はどこかに消えてなくなりました。
座禅
イベントは二部構成。第一部は座禅。第二部がトーク。
座禅。私は始めてでしたが、ナメてました。すっごい足が痛い。右足もげるかと思った。
「身体はここにある。でも意識は自由(心ここにあらずの状態にもなれる)」。なので、まずは身体を固定し、「身体と意識の両方を“ここにある状態”にする」。その時は、何も考えてはいけない。
結局「何も考えない」境地には至れなかったけど、自分の身体の動きに興味を持つことができました。
例えば呼吸。吸い込む行為は特に何も思わないけれど、吐き出す行為は意識しないと中々できない。正しくは、呼吸してるんで吸ったら吐いてるんだけど、どことなく「よし、吐くぞ!」と思ってしまっている。
「あぁ、吸う行為は貯蓄で、吐く行為は消費だからか」と、座禅の休憩中に独り合点いっていたけれど、いま思い返すとその合点もあまりよく分からない(自分の中にあるものを出し切ってしまうことの怖さみたいなのを感じたのだけれど、うまく言語化できない)。
3人のトーク
日下さん(コピーライター/写真家)、いしいしんじさん(小説家)、上松正宗さん(禅居庵・副住職/映像作家/元京都精華大非常勤講師)。
プロフィールだけ見ても個性が過ぎるお三方。
トークの進行は...予定調和的に予定通りに進まず(笑)、事前準備された9つの質問は陽の目を見ることなく、「原宿で本物の坊さんがバズった話し」や、実はコンビニより寺が多いトリビア、チベットの坊さんはエエ顔してた話し等々、ゆったりまったり一方であっという間に時は過ぎました。
急に始まった小説家の絵本の読み聞かせを食い入るように聴く大人たち
互いが互いに思ったことを質問し、発言し、傾聴し合う。みなさんご自身の興味どころを質問、発言し合うので、どの話しも面白く、側で聞いているだけでも多くの発見がありました。
その中でも特に印象に残っているのは、「京都は学生に寛容な街である」というお話し。
これは「大学生には優しい」とか言う話しではなく、「本業は傍らに置きつつ、常に学び・インプットをしている人を認める文化がある」というお話し(どこかで『永遠の初心者』と言う言葉を聞いていい言葉だなーと感じたことを思い出しました)。
大事だけど忘れがちなテーマ。自分は一生学生でいたい、そう思いました。
まとめ(られないけど)
トークの中で「今ここに生きる」という文脈のお話しがありました。
ここ最近、個人的に色々思うことがあったのと、このタイミングで日下さんの本を読み、今この時を大切にしたいという想いが強くなっていただけに、うんうんと頷いて聞いていました。
今回のトークは、(ある種)進行は考慮せず、三人が今この瞬間気になったことを喋っていて、その場にいるだけでその楽しさが伝播していく(話しの途中に割り込んで「いや、それについては僕はこう思うんですけど」って口を挟みかけたくらいw)。
何となく、みなさんの「今を生きてるっぷり」を肌で感じることができました。
一見ゆるくまったり過ごしつつも、何か自分の中にひっかかりが残る(良い意味で)。そんな印象のイベントでした。
というか、日下さん凄い。本の出版イベントで全国回ってるけど、ほんとに毎回内容が全然違うんだと驚愕。全国コンプリートしても飽きないかも。
参考:大阪・枚方のイベント参加メモ
『迷子のコピーライター』読書メモ
ざっくり言うと、「ポジティブの指南書」という感想。
学生時代の海外放浪記や仕事でぶち当たる壁、ポスター展の成功など、日下さんの身の回りで起こったことを通して、あらゆる物事の“ポジティブな面”にスポットライトを当てることの意味と、それが仕事やプライベートにどう影響しているのかが書かれた本。
「電通」「コピーライター」といったキーワードや本のビジュアルから、キラキラした眩い半生を想起してしまいそうですが、そうではありませんでした。
就活で悩み、仕事で苦しみ、病気と向き合い、人の生と死を目の当たりにする。
一方で、自分の中にある疑問(仕事はおもしろいのか?広告はおもしろいのか?)と向き合い続け、家族や尊敬する先輩、イベントを立ち上げる仲間といった人との出会いと繋がりによって人生がポジティブに動き出したよ。そんな感じのことが書かれています(すっごい大雑把に言うと)。
ポジティブに目を向けるきっかけ
会社の先輩が立ち上げたイベントスペース、大阪・味園ビル地下「FLOWER OF LIFE」。クラブ自体は苦手だったが、ここは他のクラブと違った。
ここでは(略)誰とでもすぐに心を開いて、打ち解けること。打ち解けられなくても、打ち解けようとすること。人生のポジティブな面を見ること。これが、命の花。ここが教えてくれたことは、後々、大きく役に立った。
「迷い」を経てこそポジティブになれる
少し本から逸れますが、日下さんのブログに、こんなことが書かれています。本の内容について、出版社の方とのやりとり。
「日下さんは迷いながら仕事をしている。その迷いをそのまま出す方がおもしろい」と。だから、タイトルもこうなった。
これを見て、すっごい腹落ちしました。
本書は日下さんの自叙伝なのですが、確かにいろいろ迷っている。
勝手にライフラインチャート(※想像)
日下さんの迷いっぷりを(できるだけネタバレは避けつつ)記したく、ご本人には無許可で勝手に日下さんのライフラインチャートを書いてみることにしました。
※ライフラインチャートとは
過去を振り返り、これまでの自分の心情・感情の揺れが一目で把握できるもの。
入社当初は冷めた態度で仕事をこなし、一方で全うに仕事と向き合う同期とは明らかに実力の差を見せつけられくすぶる日々。異動や良き先輩、後のポスター展立ち上げメンバーとなる仲間との出会いがあり、広告賞の受賞を精神安定剤としつつ、少しずつ仕事に前向きに取り組めるようになってきた。そうなると、どんどん仕事でも成果がでるようになったとか。
広告の作り方とかコピーの書き方とか
ちょっと話しは変わって、本を読み始めて、沸々と沸いてくるのが「広告やコピーライティングに関するノウハウは書かれてないの?」という疑問と違和感。
でも、読み終わればその疑問や違和感も払拭されます。巻末におまけとして「仕事のいいやり方」がまとめられているし、ポスター展の作品集もオールカラーで載っています。もちろん、それ以外にも文中にクリエイティブに関する色々なエッセンスが盛り込まれています。個人的に非常に刺さったのが、上司、クライアントに対するプレゼンについて書かれている箇所。
広告の停滞、ひいては、日本の停滞が「確認」にあるとぼくは考えていた。
広告制作では「作る」以外に「通す」ことに大きなエネルギーを費やす。
これは広告に限らず、モノ創りに関わる人たち全員てが感じていることではないでしょうか。
こういった、現場の人あるあるがいたるところにちりばめられています。
まとめ
本を読む前は、類稀なるセンスと強烈な個性、輝かしい受賞歴を以って語られる「オレ的キラキラ・クリエイティブ論」が書かれているのかなと思っていました。
なぜなら、日下さんのイメージは、何となく「超人」だったから。『キン肉マン』で言うなら、属性は正義超人でも残虐超人でも完璧超人でもなく、悪魔超人。キャラで言うと「サンシャイン」(金ピカだし)。
でも、本を読んでその(勝手な)イメージは間違っていたことを知ることに。日下さんは、いたって普通の人でした。就活や仕事に対する悩みは、誰しも経験するであろうことばかり。
日下さんは「サンシャイン」ではなく「ジェロニモ」だ。
そもそも超人でもない普通の人間(ただ、努力と実践を積み上げて、最終的には「超人」になってしまうファンタジスタ)なんだと、今は思い直しています。
ただ、日下さんが超人並にすごいなと思うことが5つくらいあって、
- 人との出会いを大切にするところ
- 人から受ける刺激を大切にするところ
- 行動に移すところ
- 目の前のことを楽しむ努力をするところ
- その楽しみを周囲の人に伝播させるところ
一言でいうと「ポジティブにスポットライトを当てている」ということなんだけど、このことに、愚直に・執拗に・したたかに取り組まれている印象を持ちました。
ビジネス書(仕事に取り組むスタンス)としても、コピーライティングの教科書(文中の読者を飽きさせない表現力)としても、小説(まるでフィクションのようなネタたっぷりの日下半生)としても、読み応えのある良著。おすすめです。