keita_shimabの日記

京都在住Webディレクターのイベント参加メモや読書メモなど。

海原雄山氏に見る「企画力」(+『企画力』読書メモ)

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美味しんぼ 21巻 第8話『日本の根っこ』。

 

パリ在住のデザイナー・平尾氏が仕事に疲れてしまい、日本に引き返すことを考えている。このままだとパリにある彼の会社は立ち行かなくなるばかりか、パリに戻らない=事実上のデザイナー引退を意味し、これは業界的に大きな痛手だと。

そこで、彼にパリの素晴らしさを思い起こしてもらい、日本に引き返すことを何とか思いとどまらせられないか?平尾氏は根っからの食道楽なので、料理を通して「パリに帰りたい!」と思わせよう!という話し。

 

この依頼はカメラマンから山岡氏への個人的な依頼でしたが、ひょんなことから海原雄山氏も参戦することになり、究極のメニュー VS 至高のメニューと相成りました。

 

究極・至高両陣のメニューは以下の通り。

 

究極のメニュー

  • フォアグラ
  • カキと帆立の貝柱のパイ
  • 子羊のアイ・オブ・リブの薄切りのソテー

 

至高のメニュー

  • 冷えた握り飯
  • キュウリのヌカ漬け
  • 水(丹沢山中から汲んだ岩清水)

 

それぞれの料理を食べた平尾氏の感想は以下の通り

 

究極のメニューを食べた感想

「東京でこんなに美味しいフランス料理が食べられるなら、パリへ帰る必要はないですね」

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至高のメニューを食べた感想

「日本の風土の根底を味わえた!」

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結果は至高のメニューの勝ち。

平尾氏曰く

 

私は20年間パリにいるうち、自分の根っこを失ったように思えてきたんです。

そのことが不安で不安で、たまらなくなって日本に逃げ帰ってきたんです...

でも、これで僕の迷いはふっ切れました。私には日本の風土というドッシリした根っこがあるのです。根っこさえしっかりしていれば、世界中どこへ枝をのばしたって花を咲かせられます。

私はパリへ戻ります!

 

(この料理を食べて、自らの中にある『日本の風土』を拠り所にパリへ戻る決断をした平野氏のロジックは、個人的にはまだ理解が追いていないことがあるものの)これぞ海原氏の「企画力」の勝利。主な勝因は、おそらく以下の3つ。

  1. 海原雄山氏が相手の課題をしっかり掴んでいること。
  2. (結果的に)課題を平尾氏自身が語っていること。
  3. 「パリに帰る」という行動を起こさせてたこと。

 

この3つが備わった素晴らしい企画。受けての納得感も高く、平尾氏に行動を起こさせた。


...と、えらそうなことを書いているけれど、実は最近読んだ「企画力」をテーマにした本を読んで、海原雄山氏がまさにそれを体現していて「さすがっす」となった次第。

 

田坂広志『企画力』


以下、その本を読んだ備忘メモ。

 

大きく3つのことが書かれていて、1つめは企画力の定義。2つめは「企画力」を身に付けるうえでのマインド的な話し。3つめは「企画書」の具体的な書き方の話し。

個人的に、一番「なるほど」となったのは、企画系の話しで「課題が大事」「課題をちゃんと押さえればほぼ企画は出来たも同然」ということはよく耳にするけれど、この本では「(上司・クライアントの)課題・問題意識は必ずしも明確ではないので、それを一緒に見つけていくプロセスが必要だ」と書かれている点。

なるほど。相手に納得感の無い・共感性の得られない話しはただの大きな独り言ですものね(自戒)。


「企画力」とは

まず、企画書の役割とは

一つの企画書を通じて、我々の語る「企み」に顧客が興味を持つ。
一つの企画書を通じて、我々の人間と組織に、顧客が期待を抱く。
そして、一つの企画書を通じて、我々と顧客の「縁」が結ばれる。

 

そのうえで、企画力とは何か

「人間と組織を動かす力」

「企画とは、実行されて初めて企画と呼ぶ」

 

どうやって人間や組織を動かすのか?

プロフェッショナルが人間や組織を動かすのは、「権限」を使うことによってや、「資金」を用いることによってではありません。

「物語」を語ることによってです。
これから企業や市場や社会で、何が起こるのか。
そのとき、我々に、いかなる好機が訪れるのか。
では、その好機を前に、我々は何を為すべきか。
その結果、我々は、いかなる成果を得られるか。

 

企画をするうえで必要なマインドの話し

企画書では「企み」を語る必要がある。企みとは、どのような仕事をどのような手順で進めるかが緻密に書かれた「計画書」ではなく、「世の中を、より良きものに変える」のかが書かれたもの。

企画書においては、企みを語れ。
企みを、面白く、魅力的に語れ。

 

一方で、

「人間」が面白くないと、「企み」を面白く語れない


ここで言う面白みとは、社交的とか話題が豊富とか話術い長けたという意味ではなく、「生き様」の面白みである、と。
もう少し噛み砕いて言うと、企みを語るというのは夢を語るという意味ではなく、

企業や市場や社会の現実に立脚しながら、その「夢」を「現実」に変えていくための「企み」


ということであり

魅力的な企画書とは、その「夢」と「現実」の緊張関係の中で生まれてくるもの


であると。

 

ここで「人間の面白み」の話しに戻ると、

「面白みのある人間」とは、「生き様」が面白い


具体的には、

「夢」と「現実」の狭間でのバランスの取り方が、面白い


もう少し噛み砕いて言うと

「現実」の厳しさを前にしても、決して「夢」をあきらめない。単に「現実」を受け入れるだけの「現実主義者」ではない。「リアリスト」ではない。自分の置かれている立場と自分に与えられた力で、どすれば、その「現実」を変えていけるか。わずかでも変えていけるか。そのことを考えている。


その「夢」と「現実」の狭間で、どちらの極にも流されず、粘り腰で、したたかに、バランスを取りながら歩み続けていく。その生き様は、面白くもあり、魅力的でもある。

 

具体的な企画書の書き方

「企みを、面白く、魅力的に語る」ために、具体的にどうすればいいのか?

「何を行うか」よりも「なぜ行うのか」を語れ。

 

具体的な企画書のプロット

  • 表紙:「企み」(タイトル・サブタイトルで企みを語る)
  • 2ページめ:企みの背景にある「ビジョン」(これから何が起こるのか。社会や市場や企業においてこれから何がおこるのか、その洞察を明確に語る。その企みの必要性と有効性を語る)
  • 3ページめ:もう一度「企み」を語る。詳細に、ではなく「構造化された目標」として語る。
  • 4ページめ:「目標」を「戦略」へ。「戦略」を「戦術」へ。「戦術」を「行動計画」へと順を追って翻訳する。

 

これが基本的な企画書の流れ。なぜこの流れなのかというと、読み手の「思考の流れ」を導くため。

思考の流れを導くことは読み手の思考を操作することを意味するのではなく、「問題提起」を行い、これに対する解答を一緒に考えていくこと。
そうすることで、企画書に「説得力」と「納得性」を持たせることができる。
なぜ問題提起が納得性を生み出すのか?というと、読み手は強い「問題意識」を持っているとは限らないから
上司や顧客は、実際には明確な問題意識を持っているとは限らず、心の中に「何か、この辺りが問題だ」といった「未定形の問題意識」を抱えている。

 

この現実を踏まえると

「問い」と「答え」を投げかけ、読み手の「思考の流れ」を導き、「問題意識」そのものを、どのようにもちべきかを提案する企画書。それが、ある意味で「最高の企画書」 

 

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相手に行動を起こしてもらうものが企画書であるならば、そこに書かれてるのは、納得性や合理性、実現性を伴った内容じゃないとダメなのだな、と。改めて。