『WIRED』発行記念 オープンミーティング:参加メモ
1年ぶりの復活。発売を記念して、松島編集長自らが全国行脚。その京都会場に参加しました。
場所は観光客賑わう岡崎エリア、ロームシアター京都。
東京・大阪会場はトークセッションですが、京都はオープンミーティング。「テクノロジー×ライフスタイルの未来」というテーマで、松島編集長、小谷副編集長はじめ 3名の編集スタッフの方々と参加者とでディスカッションを行います。
参加者同士の自己紹介で軽くアイスブレイクをした後、復刊に至る変遷をトレース。その後、本の内容を紹介しつつ、参加者の質問にも都度応える。最後は参加者の感想をシェアするといった内容でした。
質問がしやすい雰囲気作り、質問一つ一への丁寧で分かりやすいコメント。そのおかげで、WIREDがどういう雑誌で何を目指そうとしているのか少し理解が出来た気がします。
加えて、今後テクノロジーによって引き起こされる社会の変化をどう捉えていくのか、といったマインド的な観点でも気付きがあったイベントでした。
“雑誌”だから表現できること(雑誌を機軸にした新しい体験の提供)
WIREDの変遷トレースの流れで、「このタイミングで雑誌を出すことの意味」についてお話がありました。
紙の枠を超える(紙媒体の実験)
会場スクリーンに映し出されているのは、WIREDリブート号の表紙にデザインされている地球。
本物の地球の画像をアルゴリズムを駆使してジェネレートしたもの。これがくるくる回ります。
書店では平面に切り取られた地球を目にし、会場に足を運ぶと回転する地球を見ることができる。さらにこれがSNSなどで発信されると、より多くの人がこのデザインを目にする。
個人がインターネットに常時接続している現状において、メディアは横断的に繋がり、これまでの紙媒体とは違う体験を提供できる。
フィジカルな面白さ
例えば、目次ページのデザイン。
実はこれ、別ページのケヴィン・ケリーの写真をアルゴリズムでジェネレートしたもの。
『〈インターネット〉の次に来るもの』の著者(!)
このようにページを行ったり来たりすることで得られるフィジカルな楽しさは、Web雑誌では完全には再現できない。
ちなみに、アルゴリズムは「自然」がベースになっています。
これは「紙とデジタル」の融合であり「テクノロジーと自然」の融合でもある。
WIREDはただのテック雑誌ではなく、テクノロジーを使って未来をどう変えるのかをテーマにしている。そういう意味で、地球や目次のデザインはWIREDが目指していることを象徴したものである、とのこと。
ニューエコノミー
リブート号のテーマは「ニューエコノミー」。実はこの言葉、90年代に流行したものです。
ざっくりとはインターネットの登場で何でもコピーできる時代になり、資源がなくてもモノが生み出せる新しい経済形態になるというもの。
ただ、2000年代にドットコムバブルが弾け、「ニューエコノミー」は無かったことになってしまった。
一方で、そこから十数年経った今現在、世に広まっているテクノロジーは、実は20年前の「ニューエコノミー」の中で言われていたことを実現したものばかり。
ここから分かるのは、社会を変えるテクノロジーは十年単位の長期間の時間軸が必要であるということ。
WIREDはこういった、社会を動かすテクノロジーをキャッチし発信したい(毎年変わるテクノロジーのトレンドを伝えるような雑誌ではない)。
なので、今一度「ニューエコノミー」を捉えたうえで、次に起こることを考えるべく、リブート号のテーマをそれにしたそうです。
社会をアップデートする動き
雑誌の中で掲載されている事例について、紹介がありました。ここでは、その中からいくつかピックアップします。
プラットフォーム企業の独占をアップデートする「コーポラティヴィズム」
テクノロジーの発展により人々の生活はより良くなり、自由になった...と思いきや、例えばGAFAのような一部のプラットフォーム企業が富を独占し、全ての人々が自由になったとは言い難い。
この課題を解決し得るものの1つが、コーポラティヴィズムという思想。
参加者がプラットフォームを所有するというもので、例えば Uberであれば、ドライバーの給与を決めるのは経営者ではなくドライバー自身が決めるべきだと唱えるもの。
世に根付くダイバーシティ意識の欠如
起業資金を得るにはVCの支援はかかせない。しかし、シリコンヴァレーをはじめとするVCの投資先の90%は「ある程度財力があり、特定の大学を卒業し、特定の場所で働く白人男性」によって占められていたのだ。
『WIRED 2018 VOL.31 』P111
一部の人間以外、打席に立つことすらできない。特に有色人種やLGBTQといった人たちはなおさら。
この現状をアップデートするために設立されたのが『Backstage Capital』。女性や有色人種、LGBTQとった人々へ投資するVCです。
ファウンダーのアーラン・ハミルトン自身も女性で、有色人種で、レズビアン。これまで「見過ごされたきた人々」の一人あり、そのような人たちも含め、
全ての人に「極上のワンショット=失敗を恐れず挑戦を楽しむ場」を提供するという目標を掲げている
『WIRED 2018 VOL.31 』P112
“限界費用ゼロ社会” の到来
ざっくりとはモノを増産する時のコストがゼロになる社会のこと。
限界費用(げんかいひよう、英: marginal cost)とは、生産量を小さく一単位だけ増加させたとき、総費用がどれだけ増加するかを考えたときの、その増加分を指す。
テクノロジーの発展によって、モノを増産する時のコストがゼロになる社会がくる。松島さん曰く「エネルギーも今後ほぼ無料になる」とのことでした。
少し話は逸れますが、同じようなことを最近よく参加している Singularity University でもよく耳にします。具体的に2030年にはエネルギーがほぼゼロで取引されている社会になっている。指数関数的に発展するテクノロジーによって、あらゆるモノのコストが下がる一方でパフォーマンスが上がる現象が起きるという話がありました。
違う場所で同じような話を聞くと、一気にそのことが身近に感じられるから不思議(←単純)。
オープンミーティングに参加して
テクノロジーの発展より、社会は大きく変わろうとしている。改めてそのことを感じたイベントでした。
この変化の中を生きていくうえで、大切だと感じた 3つのことを記載します。
積極的に情報を集め、疑い、判断する。
世の中に溢れる情報にどう接していけばいいのか?という学生さんの質問に対して、小谷副編集長が仰っていたこと。「全ての情報にはバイアスがかかっている」というもので、例えば、AIは最適解を提示してくれるように思いがちだが、実は解の元になるデータはある一定層の白人男性からしか取得したものでしかない(これも Singularity University で話題に上がっていて、AIが喰っているデータは貧困層のそれはない。そもそもデバイスを利用していないのでデータを取りようがない、という話)。
これはAIを批判する話ではなく、「自分で考えることが大切」ということ。できるだけいろいろな視点で情報を集め「こういうことかな?」と、アタリをつけ続ける。間違った判断をすることもあるけれど、そういったトライアンドエラーをし続けることが大切というお話でした(小谷副編集長曰く、「WIREDがそのきっかけになれたら...」)。
「個人」の重要性
これはイベントの中で出たことではなく、今回のイベントで改めて認識したこと。
正解がない世の中でどう生きていくのか。世の中のムーブメントは、自分とは遠く離れたどこか(大きな力?)で起こっているようだけど、そうではない。
例えば「コーポラティヴィズム」に象徴されるように、意思決定主体が「個人」にシフトしていく流れは確かにあって、(少し前に流行った本ではないですが)自分自身がどう生きるかが問われる状況だな、と改めて。
そのような現状において、重要なのが「オプティミズム(楽天主義)」ではないか。
松島さんのお話にもあったのですが、未来に対して「何となく不安...」と思考停止するのではなく、まずは未来は良くなると考え、課題をきちんと捉え、取り組む。
世界にはこのマインドで具体的にアクションを起こしている人たちがいることをしっかり理解する(WIREDはメディアとしてそういう人たちを紹介していく)。
課題に直面した際の思考停止は「あるある」だと思うし、そういう意味では「オプティミズム」はテクノロジーに関わらず、生きていくうえでの大切なマインドであり、その視点を持ったうえでWIREDを読むと、感じ取ることもいろいろ変わってくるのだろうなと思いました。