keita_shimabの日記

京都在住Webディレクターのイベント参加メモや読書メモなど。

『日本進化論』読書メモ

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日本進化論(落合陽一/SB新書/2019年1月)

社会課題(人口減少、超高齢社会、社会保障の破綻等)の共有。その解決のキーがテクノロジーであることが、具体的な施策案も添えて書かれています。

 

はじめに

よく見聞きする悲観的な未来予測。本当にそうなのか?

「平成の30年余りの間に日本は衰退した。」

「今後は斜陽国家として落ちぶれていく。」

よく聞く未来予測、本当にそうなのか?もう一度議論する必要があるのではないか?

確かに失われたものや反省すべき点はあるけれど、そこに囚われるあまり、今の日本が抱えている問題の本質や解決の糸口が意外なところに潜んでいることに気付き辛くなっているのではないか。

 

キーワードは「ポリテック」=ポリティクス(政治)+テクノロジー(技術)

ポリテックが目指すこと

政治とテクノロジーの融合が、今後人々が幸せに暮らせる社会を創るうえで重要になる。

 

社会課題の解決にはテクノロジーの活用は必須。政策が決められる過程で、政治・経済等の論点の中に「テクノロジー観点で見るとどうか?」を加える必要がある(医療におけるセカンドオピニオンのようなイメージ)。

 

なぜポリテックが必要なのか

理由は、テクノロジーの影響力の強さ。現代は、社会・政治・国際関係などあらゆる分野で、テクノロジーが破壊的なスピードで大きなインパクトを与える時代になっている。

 

例えば、都市部と地方の格差。都市部に人が集まる一方で、地方は人口が減少する状況で、両者の間が分断され格差に繋がっている。

具体的には、地方は水道や電気といったハード面や社会制度などのソフト面を維持するためのコストがどんどん増えていく。例えば、高齢者が数人しか住んでいない限界集落に東京と同じインフラを整備するのは効率が悪い。
ここでテクノロジーを上手く活用すれば、サービスを複製するためのコストが安くなり、地方への効率的なインフラ提供が実現する。結果、格差が是正できる(ex. インターネット投票)。

そういった、現状のスマホなどのコモディティハードウェア上で動作するソフトウェアテクノロジーは、ハードウェアへの大規模な投資が難しいという地方のハンディキャップを埋めてくれます。

 

 

テクノロジーと日本の課題を探る

喫緊の課題は「人口減」と「高齢化」。
それを解決するツールがテクノロジー

 

テクノロジーの現在地

限界費用ゼロ化
これらのテクノロジーの進化が導き出す方向性は「限界費用ゼロ化」社会。

限界費用」とは、財やサービスをある生産量から一単位多く生産するときに伴う、追加的な費用のことです。要はすでに開発や製品が終わっているプロダクトやコンテンツを量産するときにかかる費用


限界費用の抑制は、以下3点で整理できる。

  1. 仕事のAI化
  2. 事業のプラットフォーム化
  3. インフラの再活用

 

仕事のAI化
ぱっと想起されるAIに代替される仕事の他にも、例えばイラストの着色といったクリエイティブ領域でもAIが代用する技術がすでにある。


事業のプラットフォーム化
プラットフォーム化とは、「場を作る」こと。例えばiPodはハードとコンテンツがセットになることで収益が上がりやすい状況を生み出している。他にもYoutubeは場作りのみでコンテンツは作っていない。

これは、顧客の囲い込みだけではなく、家賃や人件費などのコスト削減も実現する。


インフラの再活用
例えばSkype。ネットにタダ乗りしてサービスを提供する(自社でインフラを構築しているわけではない)。

 

これらの根底にあるのは、初期投資を可能な限り抑制し、人間の介在を減らすことで人件費を削減するという、ごくシンプルな発想。

 

労働の効率化

日本の課題「少子高齢化」。これに抗う鍵になるのが省人化と自動化。テクノロジーを活用して、これを進めるべき。

これまでの(工業生産を前提とした)社会は、労働を「標準化」することで回っていたが、今後は多様性を前提にした「パラメーター化」が必要になる。
パラメーター化とは、個々人の最適な形の解決策を適用することで、社会を回していくこと。

 

また、別では生産性の低さという問題もある。日本の生産性の低さは問題視されているものの、そのことに対するリソース投下が十分になされていない(未来の課題解決にに投資できない)状況にある。

 

リソース投下の課題は大きく2つ。

  • シニア層と過去へのリソース投下があまりにも重く、未来に投資できない。
  • インフラ投資があまりに重く、都市集中型の未来しか描けない。

前者について、家族で例えると、収入よりも多いお金を借金をしながら祖父・祖母に回し、若い人たちは「なんとかしのぎましょう」という状態。世代間の投入費用のリバランスが必要。
後者については、地方に対するリソース投下の問題。地方から都市にどんどん人口が流出する。そうなると住む人一人当たりにかかる公費は地方の方が多くなる(ex.東京都目黒区が一人当たり年間34万円、一方島根県海士町気仙沼のそれは250万円)。結果、極端に都市に集中して生活するしかない都市セントリックな未来へ突き進んでしまう。サスティナブルな未来を創るには、このインフラコストをいかに下げるかが重要。

 

 

「働く」ことへの価値観を変えよう

「働き方」アップデートに対して障壁になる「固定化された価値観」

例えば「地方には仕事が無い」という地方と都市の格差への悲観や、不必要に複雑化された承認プロセスやデジタル化されていない固定化された価値観から生まれた業務環境(ex.行政)。そして「障がい者」。障がい者は仕事で自己実現出来ないという価値観が根強く蔓延っている。

 

「固定化された価値観」が生まれた背景

20世紀に形成され、機能したもの。終身雇用を前提とした「安定のレール」が全員の幸福を保証いていた時代に生まれたもの。
これは高度経済成長といった長期にわたる業績右肩上がりが前提なので、GDP減少傾向にある現状にはそぐわない。

 

終身雇用・年功序列制の限界

しかしこの価値観は、実は半世紀程度の歴史しか持たない。戦後の工業を基礎とした社会では、労働者の多くが同一のインフラに乗り、同じ信念を持ち、同じ方向に成長していくことが生産の効率化とコスト最小化に効率的だった。
しかし、工業化から情報化への転換を契機に、この価値観が立ち行かなくなっている。

 

社会変化の3つのキーワード

そのような社会変化の中で、重要なキーワードは3つ。

  1. 限界雇用ゼロ化
  2. インフラ撤退社会
  3. ダイバーシティの実現

 

限界費用ゼロ化

限界費用」とは、財やサービスをある生産量から一単位多く生産するときに伴う、追加的な費用のことです。要はすでに開発や製品が終わっているプロダクトやコンテンツを量産するときにかかる費用

昔は限界費用と限界効用を天秤にかける必要があった。その結果生まれたのが画一的なデザインによる大量生産(=効率化)。
しかし、所謂情報化社会の到来により、ソフトウェア産業・インターネット産業では、全てのことが簡単にコピーできるように。結果、生産手段の民主化が進み、生産者と消費者の境界が曖昧になる。

 

インフラ撤退社会

過疎化が進む村落では巨大インフラの構築・維持は無理。個別の状況に応じた最適なサイズのインフラに置き換える必要が出ている。ネットワークインフラさえあれば、地方でも不自由なく暮らせることができる。

 

ダイバーシティの実現

ここで言うダイバーシティ(多様性)とは、

性別・人種・年齢・障がいまでを含めた、幅広い人間のあり方を受け入れるという意味です。


テクノロジーの発展が多様性を促進する。これまでも、メガネのようにテクノロジーで身体能力を拡張してきたが、今はさらにそれぞれの状況に最適化された技術的サポートが可能になっている。


例えばコミュニケーションロボットの『OriHime』

orihime.orylab.com


テクノロジーの補助が介在することで、障がいもある種のパラメーターの違いに過ぎない状況になり得る。

 

労働環境は「AI+BI」と「AI+VC」に二分される

一部の地域に偏って投下されている多額の公費を、均等に再分配かつ各地域の人口に応じて個別最適化された規模でインフラが提供できれば、ある種のベーシックインカムのような再分配の仕組みが生まれる可能性がある。

 

AI+BI
そうなった時、多くの人はAIの指示の基、人機一体となって指示に従い、短時間の簡単な労働をするようになる。これが「AI+BI」的な働き方。
例えばUberのビジネスモデルとベーシックインカムの組み合わせ。地方の交通インフラとして重要な役割を担う自動配車サービスにベーシックインカムの資金を投下するかたち。
事業単体での黒字化は難しくても、料金が低ければ雇用も生まれ、公共的なインフラの役割も担える。

 

AI+VC
社会を発展させるためのイノベーションに取り組む働き方。ごく少数の人が担う。

 

両者は対立しない

これは、ある課題にアプローチする際の役割分担。ビジョンを具体的なアクションに落とし込む人と、そのアクションを忠実に実行する人。
どちらが優れているということではなく、どちらも必要(落合氏も両方やっている)。

大切なのは、組織の論理に囚われず、コストを最小化し利潤が最大化されるよう、個々人の判断で動くこと。

 

 

超高齢社会をテクノロジーで解決する

本書では、以下2つの理由から「高齢者ドライバー問題」が例に取り上げられています。

  • 政治とテクノロジー結節点にあり、ポリテックによる問題解決の典型的な事例だから
  • 将来的に日本人の多くが似たような問題に直面するから

 

3つのアプローチ

この問題を3つのアプローチで解決する

  1. ドライバー監視技術
  2. 自動運転技術
  3. コンパクトシティ

事故の直接的な要因は高齢者の身体的・認知的能力の低下にある。その解決には状態を常時チェックする①のシステムが重要だし、②③が有用なのも言わずもがな。

 

 

孤立した子育てから脱却するために

次に子育ての問題。いま子育てをしている親の状態は「アノミー」である。「アノミー」とは、社会の中で排他性が強まり、帰属性が消失すること。

核家族化により、社会と個人の距離が遠くなることで、子育てがしにくくなってしまっている。

 

解決の方向性は2つ。

  • 手が空いている人に子どもの面倒を見てもらう
  • 隣人と共同で子育てに携われる地域コミュニティの再構築

例えば、高齢者が勤労者を支えるという発想の転換
一般的に、小学校の6年間が大変なので、ここを行政や企業がサポートすることを目指してみてはどうか。

 

 

今の教育は生きていくために大事なことを教えているのか

現在の日本の高等教育は、標準的な知識を効率的に詰め込む「標準化」を目的としたもの。

そんな中、世界中の教育機関が学生数から教育環境、研究分野から産業収入に至るまで、あらゆる観点から順位付けされる World University Ranking 2019では、東京大学が42位、次いで京都大学が65位。それ以外は100位以下。日本の教育は先進国とは言えず、この現状を打破する必要がある。

日本の教育革命のための重要な指針は、教育の「標準化」から「多様性」へのシフト。
求められる学び方は大きく2点。「リカレント教育」と「Ph.D(博士学位)の教育」。

 

リカレント教育
社会人の学び直しと、キャリアの促進・転換を促すための教育。

 

Ph.Dの教育
過去に事例の無い問題を自ら設定し、その解決を考えるスタイル。言われたことを学ぶのではなく、「自分は今、何を学ばなければいけないのか」を客観的に考えながら問題を解いていく。

 

一方でこの実現は一朝一夕にはいかない。現実的には段階的にシフトしていくかたちで、Ph.D的な学習と従来の詰め込み型学習を両立させる。
具体的には、大学入試が終わった時点でこれまでの勉強の価値観を全て捨てる「アンラーニング」。これを経ることで、「あらゆる前提は偽の可能性がある」という懐疑的なマインドセットを身に付けることができる。

 


本当に日本の財源は足りないのか?

社会保障費は本当に増え続けているのか?

財政問題における最大の懸案のひとつが社会の高齢化に伴う社会保障費の増大。
新聞などによると、社会保障費は2040年度に190兆円、2018年の1.6倍になると報じられている。
しかし慶應義塾大学権丈善一教授によると、これは誤報。将来の社会保障給付費は対GDP比で見るべきであると。
GDP比で見ると、2040年度のそれは、現在の1.1倍。際限なく拡張して制度が崩壊する、といった一般的なイメージとは異なる。

 

社会保障費の対GDP比の増減
将来への変化予測を見ると、2000年から2040年にかけて 15%から 24%に急増している。
但し、詳細を見ると2000年から2010年が急増。2010年以降はなだらか。2025年以降再び増加に転じるも、15年間で1.11倍程度と、その変化は穏やか。

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▼出典:東洋経済ONLINE

toyokeizai.net

 

ポイントは「医療」と「介護」

前出の2025年以降増加する2~3ポイント程度の負担を上手く解消できれば、少なくても現状維持は可能。
社会保障費の内訳。社会保障費のうち「年金」「医療」「介護」「子ども・子育て」の占める割合をみると年金と医療の占める割合が大きいことが分かる。

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▼出典:東洋経済ONLINE

toyokeizai.net

 

将来的な変化として、年金は微減傾向、子育ては現状維持。増加するのは医療と介護のみ。
これからの20年、この2つのコストを抑える施策が重要になる。

 

テクノロジーの活用でコストを抑える

ICTテクノロジーの導入でどれだけ人件費を抑えられるか。介護作業の完全自動化は難しいため、介護を補助し効率よく進める仕組みの構築が現実線。

 

『Telewheelchair』

digitalnature.slis.tsukuba.ac.jp

具体的な取り組みの一つが「Telewheelchair」。車椅子一台につき介護士一人が付き添う非効率さを解消するためのもの。自動運転と遠隔操作がキー技術。
実際に現場で試運転を重ねると、介護される当事者のお年寄りからは高評価だそう。

 

政府系投資機関の活用
一方でマクロ視点から見ると、テクノロジーによる省人化と自動化は財政にとって良いことばかりではない。
人間が担ってきた業務が機械に代替されると、所得税による税収は減少。それによりデフレへ向かう可能性もある。
加えて、企業の業績は上向くが法人からの税収にそれが反映されるかは未知数。
そのため、これからは税収で財政を支えるのではなく、政府系投資機関を通じて、国と企業がイノベーションの成果を分け合う発想が必要。

具体的には、テクノロジーによる省人化・自動化に成功した企業は市場における優位性が確立され株価が上がる。政府系投資機関はそこに投資し利益を得る。これにより税収とは別の財源を確保できる。


すでに年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などが存在するものの、今後は投資先企業の選定について、将来を見据えたより高度が判断が必要になる(単純な営利目的の投資は行うべきではない)。

 

デンマークの事例
一方で税収を増やすことも重要。日本とよく似た人口構成比のデンマークは、高齢化社会でありながら、(日本とは違い)経済成長を実現している。
実現の要因は「産業構造の転換」と「行政の効率化」。


産業構造の転換
製造業が主要な日本とは異なり、デンマークでは主要産業を流通・小売業へと転換し始めている。ゼロからモノを作るのではなく、既製品に価値を付与する産業へシフトしている。


行政の効率化
テクノロジーの活用、ビッグデータの活用。医療分野の電子化などを推し進めている。

 

日本の根底にある「シルバー民主主義」
実はこれが根深いのでは?と落合さんは投げかけます。

 

60歳以上が有権者全体の約4割を占める歪な構造。「テクノロジーへの投資をします」というよりも「介護保険料を安くします」と言った方が受け入れられやすい実情があるり、未来への投資がし辛い状況にある。

 

 

人生100年時代の「スポーツ」の役割

最後にスポーツ。今、スポーツの目的が変化している。これまでは「身体的な健康の増進と娯楽が目的」だが、これからは「ストレス解消、コミュニティ形成、予防医学的効果が目的」となる。

そんな中、我々日本人は「忙しい」「場所がない」といった理由から、なかなか運動をしない傾向にある。

その解消には、所属する組織が運動・スポーツのための時間を強制的に確保し、運動の習慣を制度として生活の中に組み込むことが考えられる。また、場所の問題はパブリックスペースの整備を急ぎつつ、VR・AR技術による空間の効率的な活用など、狭い空間でも運動が可能になるテクノロジーの活用が期待される。

 

 

最後に所感をつらつらと

本書最後「おわりに」の章で、落合さんは以下のようなことを書かれています。

依然として「若者を自由に」すること、すなわち未来への投資ができていないことが、僕は非常に悲しいのです。

繰り返し本文を通してお伝えしてきましたが、日本社会はポリテッックをテコに課題解決できる余地が数多くあります。

ポリテックを推進していくためには、日本全体にはびこる閉鎖的で後進的なマインドセットを変えていく必要がある

個人が備えるべきは、今までの常識+固定観念にとらわれない柔軟でフラットな視点

 

どれもポジティブで共感できるコメントばかり。

 

今後の社会のあり方が語られる際、少子高齢化をベースにした悲観論が多いのは事実だと思います。


しかし、本書ではまず事実を俯瞰的に捉え(事実がそうなるに至った歴史や経緯を正しく理解し、その背景にある“意味”を捉え)、その上で具体的な解決策が提示されています。

 

反射的に悲観を語るのではなく、テクノロジーを使ってそれをどうひっくり返すか。

 

落合さんのアプローチは、日本社会という大きなテーマは当然ながら、属するコミュニティあるいは個人といったレイヤーでも、日々生まれる課題ときちんと捉え、どう(好転に向けた)アクションをとるかといった、日常生活を送るうえでも有用な気付きを与えてくれるものでした。