『迷子のコピーライター』読書メモ
ざっくり言うと、「ポジティブの指南書」という感想。
学生時代の海外放浪記や仕事でぶち当たる壁、ポスター展の成功など、日下さんの身の回りで起こったことを通して、あらゆる物事の“ポジティブな面”にスポットライトを当てることの意味と、それが仕事やプライベートにどう影響しているのかが書かれた本。
「電通」「コピーライター」といったキーワードや本のビジュアルから、キラキラした眩い半生を想起してしまいそうですが、そうではありませんでした。
就活で悩み、仕事で苦しみ、病気と向き合い、人の生と死を目の当たりにする。
一方で、自分の中にある疑問(仕事はおもしろいのか?広告はおもしろいのか?)と向き合い続け、家族や尊敬する先輩、イベントを立ち上げる仲間といった人との出会いと繋がりによって人生がポジティブに動き出したよ。そんな感じのことが書かれています(すっごい大雑把に言うと)。
ポジティブに目を向けるきっかけ
会社の先輩が立ち上げたイベントスペース、大阪・味園ビル地下「FLOWER OF LIFE」。クラブ自体は苦手だったが、ここは他のクラブと違った。
ここでは(略)誰とでもすぐに心を開いて、打ち解けること。打ち解けられなくても、打ち解けようとすること。人生のポジティブな面を見ること。これが、命の花。ここが教えてくれたことは、後々、大きく役に立った。
「迷い」を経てこそポジティブになれる
少し本から逸れますが、日下さんのブログに、こんなことが書かれています。本の内容について、出版社の方とのやりとり。
「日下さんは迷いながら仕事をしている。その迷いをそのまま出す方がおもしろい」と。だから、タイトルもこうなった。
これを見て、すっごい腹落ちしました。
本書は日下さんの自叙伝なのですが、確かにいろいろ迷っている。
勝手にライフラインチャート(※想像)
日下さんの迷いっぷりを(できるだけネタバレは避けつつ)記したく、ご本人には無許可で勝手に日下さんのライフラインチャートを書いてみることにしました。
※ライフラインチャートとは
過去を振り返り、これまでの自分の心情・感情の揺れが一目で把握できるもの。
入社当初は冷めた態度で仕事をこなし、一方で全うに仕事と向き合う同期とは明らかに実力の差を見せつけられくすぶる日々。異動や良き先輩、後のポスター展立ち上げメンバーとなる仲間との出会いがあり、広告賞の受賞を精神安定剤としつつ、少しずつ仕事に前向きに取り組めるようになってきた。そうなると、どんどん仕事でも成果がでるようになったとか。
広告の作り方とかコピーの書き方とか
ちょっと話しは変わって、本を読み始めて、沸々と沸いてくるのが「広告やコピーライティングに関するノウハウは書かれてないの?」という疑問と違和感。
でも、読み終わればその疑問や違和感も払拭されます。巻末におまけとして「仕事のいいやり方」がまとめられているし、ポスター展の作品集もオールカラーで載っています。もちろん、それ以外にも文中にクリエイティブに関する色々なエッセンスが盛り込まれています。個人的に非常に刺さったのが、上司、クライアントに対するプレゼンについて書かれている箇所。
広告の停滞、ひいては、日本の停滞が「確認」にあるとぼくは考えていた。
広告制作では「作る」以外に「通す」ことに大きなエネルギーを費やす。
これは広告に限らず、モノ創りに関わる人たち全員てが感じていることではないでしょうか。
こういった、現場の人あるあるがいたるところにちりばめられています。
まとめ
本を読む前は、類稀なるセンスと強烈な個性、輝かしい受賞歴を以って語られる「オレ的キラキラ・クリエイティブ論」が書かれているのかなと思っていました。
なぜなら、日下さんのイメージは、何となく「超人」だったから。『キン肉マン』で言うなら、属性は正義超人でも残虐超人でも完璧超人でもなく、悪魔超人。キャラで言うと「サンシャイン」(金ピカだし)。
でも、本を読んでその(勝手な)イメージは間違っていたことを知ることに。日下さんは、いたって普通の人でした。就活や仕事に対する悩みは、誰しも経験するであろうことばかり。
日下さんは「サンシャイン」ではなく「ジェロニモ」だ。
そもそも超人でもない普通の人間(ただ、努力と実践を積み上げて、最終的には「超人」になってしまうファンタジスタ)なんだと、今は思い直しています。
ただ、日下さんが超人並にすごいなと思うことが5つくらいあって、
- 人との出会いを大切にするところ
- 人から受ける刺激を大切にするところ
- 行動に移すところ
- 目の前のことを楽しむ努力をするところ
- その楽しみを周囲の人に伝播させるところ
一言でいうと「ポジティブにスポットライトを当てている」ということなんだけど、このことに、愚直に・執拗に・したたかに取り組まれている印象を持ちました。
ビジネス書(仕事に取り組むスタンス)としても、コピーライティングの教科書(文中の読者を飽きさせない表現力)としても、小説(まるでフィクションのようなネタたっぷりの日下半生)としても、読み応えのある良著。おすすめです。