『他者と働く』「わかりあえなさ」から始める組織論:読書メモ
知人に勧められた本がすごく良かったので、備忘メモを残します。
経営学者・埼玉大学 経済経営系大学院 准教授の宇田川 元一さんが書かれた、「『他者と働く』「わかりあえなさ」から始める組織論」という本。
ざっくりとは、人間関係で発生する分かり合えなさは「対話」することで克服できる。
対話のために自分の価値観や前提条件は横に置きつつ、相手には相手なりの価値観や前提条件があることを認識し、必要なプロセスを踏んでいくことで、分かり合えなさは克服できる。ということが書かれています。
組織にせよ知人・友人にせよ、家族やパートナーとの関係性にせよ、人が二人以上集まる状況で、「分かり合えなさ」絶対に発生する(と、私は思っています)。
そういう意味では、本書はどんな人にも参考になる情報が書かれている本だと感じました。
以下はだいぶ端折ったメモ書きなので、少しでもこのテーマに興味のある方は、ぜひ本書を手に取っていただければと思います。
2種類の課題
ハーバード・ケネディ・スクール上級講師でリーダーシップを研究しているロナルド・ハイフェッツ曰く、日常にある課題には2種類ある。
1つが「技術的課題」、もう1つが「適応課題」。
1つめの技術的課題は、既存の方法で解決できる問題。
2つめの適応課題は、既存の方法で一方的に解決ができない複雑で困難な問題。
ざっくりとは、前者は世に溢れる知識や技術で解決できる課題。
後者は、なかなか解決できない課題。しかも、私たちの社会が抱えたままこじらせている問題の多くはこれに属するもの。
課題解決の鍵は「対話(dialogue)」
見えない問題、向き合うのが難しい問題、技術で一方的に解決ができない問題である「適応課題」をいかに解くか ――― それが、本書でお伝えする「対話」です。
著者の言う対話とは「新しい関係性を構築すること」。
それは、いきなり分かり合おうとすることではない。
新しい関係性を築いていくことであり、かつ少し手間のかかること。
例えば、社内で新しい取り組みを提案するも、腹落ちしない理由で拒否される。
そして提案した側は、拒否されたことに腹を立てる。
この時の相手との関係性は、「自分の提案を受け入れさせよう」というもの。
しかし、相手にも相手なりに一理ある。
もし、その相手の状況の中で提案が意味あるものにする必要があると考えられれば、その瞬間に関係性の変化が始まっている。この関係性の変化を、対話によってもたらすことが重要。
■対話の第一歩は「分かり合えないことを認める」
組織に問題があることは分かっている。けれど、どう向き合えばいいかよく分からない。そうするうちに時間だけが過ぎていく。
組織に属する人間であれば、よく目にする状況かと思いますが、より良い組織をつくるためには、もう一歩踏み込んで考える必要がある。
劇作家の平田オリザさんは、著書『わかりあえないことから』で、対話が日本で起きにくいのは、お互いに同じ前提に立っていると思っているからだ、と喝破しました。そして、お互い分かり合えていないことを認めることこそが対話にとって不可欠であると述べています。これは大変鋭い指摘です
互いに分かり合えていないことを受け入れたうえで、「知識の実践」を行うしかない。
■2種類の人間同士の関係性
哲学者マルティン・ブーバーは、人間同士の関係性を大きく2つに分類しました。
1つは「私とそれ」の関係性。もう1つは「私とあなた」の関係性。
1つめの「私とそれ」は、向き合う相手を自分の道具のようにとらえること(ex.レストランの店員さんに対して、一定の礼儀や機能を求めること)。
ビジネスにおいて、この関係性はよくあることで、立場や役割によって道具的に振る舞うことを要求する。
人間性とは別のところで道具としての効率性を重視した関係を築くことで、スムーズな会社の運営や仕事の連携を実現する(これ自体が悪いことではない)。
2つめの「私とあなた」は、相手の存在が代わりが効かないものであり、平たく言うと「相手が私であったかもしれない」と思えるような関係のこと。
例えば、困難な問題に挑むチームは、上司と部下という公式的な関係を超えた、ひとつのまとまりとして動いている。この状態は、「私とそれ」の関係性から、個々の違いを乗り越えて「私とあなた」の関係性へ移行したもの。
対話する上では、この関係性になることが必要。
■(改めて)「対話」とは
対話とは、権限や立場と関係なく誰にでも、自分の中に相手を見出すこと、相手の中に自分を見出すことで、双方向にお互いを受け入れ合っていくことを意味する。
一方的に解決できない4タイプの「適応課題」
適応課題には、4つのタイプがある。
共通するのは、どれもが既存の技法や個人の技量だけで解決できない問題であること。
もっと言えば、人と人、組織と組織の「関係性」の中で生じている問題。
各タイプの内容は、以下の通り。
1. ギャップ型
大切にしている価値観と実際の行動にギャップが生じるケース。
例えば、女性の社会進出が必要という大切な価値観はありながらも、実際ある時代までの男性にとっては都合のよかった男性中心の職場が形成されている。
この仕組みが短期的にはある部分で理にかなって機能してしまっているため、これを変える行動に出るのはなかなか難しい。
この問題はある種、合理的に発生している。
この状況を変えるためには、合理性の根拠を変えるような取り組みに挑む必要が出てくる。
2. 対立型
互いのコミットメントが対立するケース。
例えば、短期業績の達成をミッションとする営業部門と、契約が問題ないようにする法務部門。契約内容よりも目の前の売り上げを重視する営業部門と法務部門。どちらもお互いの合理性の根拠に即して、正しいことがすれ違うために、問題が起きがち。
合理性の根拠=枠組みの違いが対立を生んでおり、この解消に挑む必要がある。
3.抑圧型
「言いにくいことを言わない」ケース。
例えば、既存事業に将来が無さそうだとわかっているけれど撤退できない状況。
組織の中で、語れる範囲を広げていかなければ、適応課題に挑むことができない。
4.回避型
痛みや恐れを伴う本質的な問題を回避するために、逃げたり別の行動にすり替えたりするケース。
例えば、職場でメンタル疾患を抱える人が出たときに、ストレス耐性のトレーニングを施すケース。これは焼け石に水で、個別の能力レベルで対処できる技術的問題ではなく、職場の仕事の仕方や事業そのものが根本的に抱えている問題に着手しなければならない。
4つのタイプのどれもが取り組んでいない大事なこと
上記4タイプを俯瞰してみると、大事なことに取り組んでいない・できないという共通点がある。
それは、問題の立て方。
当事者は、自分の枠組みで物事を捉えている。自分の枠組みからは「相手の主張こそが問題に見える」(結果、相手がなぜそんなバカげた主張をするのかと考えるようになる)。
一度自分の解釈の枠組みを保留してみて、相手がなぜそのように主張するのかを考えてみると、相手には相手なりに一理あるということが見えてきます。「まぁ、言いたいことはわかるな」という感じにはなるでしょう
そうすると、相手が自分の主張を受け入れられるにはどうしたらよいか、という視点に立つことができるでしょう。
この一連の過程こそが対話であり、適応課題に向き合うということなのです。
つまり、自分の枠で物事を考えている限り、自分と他人とは「私とそれ」の関係性であり、対話は成立しない。
まずは、自分と相手とは枠が違うことを認識し、自分の枠を外し、相手の立場に立つことが重要。その実現のための一連の流れが「対話」ということ。
...と、私は解釈しました。
変えるべきは「ナラティヴ(narrative)」
適応課題が見いだされた時、その第一歩目として、相手ではなく自分を変える。
何を変えるのか?の答えは「ナラティヴ」。
ナラティヴ(narrative)とは物語、つまりその語りを生み出す「解釈の枠組み」のことです。
例えば、ビジネスにおいては、「専門性」や「職業倫理」、「組織文化」などに基づいた解釈。
いくつか例を挙げると、部下と上司の関係。上司は部下に従順さを求める一方で、部下は上司にリーダーシップや責任を求める。それぞれが解釈に合わない言動をすると腹を立てたりする。
別では医者と患者の関係性。医者は患者を診断する対象として、患者は医者に対して自分の身体の問題を正しく治療してくれる「先生」として解釈する。
ナラティヴは、個人の性格を問わず、仕事上の役割に対して、世の中で一般的に求められている職業規範や、その組織特有の文化の中で作られた解釈に枠組みから生じるものです。
こちら側のナラティヴに立って相手を見ると、相手が間違っているように見える。逆もまた然り。
双方のナラティヴに溝があることを見つけ、「溝に橋を架けていくこと」が、対話である。
「溝に橋を架ける」ための4つのプロセス(対話のプロセス)
自分と相手の間にあるナラティヴの溝(適応課題)に、橋(新しい関係性)を築く行為こそが、即ち対話を実践していくこと。
具体的なプロセスは以下4つ。
1. 準備「溝に気付く」
相手と自分のナラティヴに溝(適応課題)があることに気付く。
2. 観察「溝の向こうを眺める」
相手の言動や状況を見聞きし、溝の位置や相手のナラティヴを探る。
適応課題がどういう事情で発生しているのかを、よく見定めていくことがメインの取り組み(何が相手にとって大事なことで、困ることや、恐れていることは何なのか、相手の先には誰がいるのか?それをよく観察する)。
3. 解釈「溝を渡り橋を設計する」
溝を飛び越えて、橋が架けられそうな場所や架け方を探る。
こちら側の取り組みが、相手のナラティヴにおいても意味があるようにするにはどうしたらよいのかを考える。
4. 介入「溝に橋を架ける」
実際に行動することで、橋(新しい関係性)を築く。
準備と観察を重ねれば、橋を架けるための様々なリソースが見つかる。そこで、解釈の段階で橋の設計をし、介入する段階で初めて技術的解決ができるようになる。
対話を阻む5つの罠
対話に挑む中で陥りやすい罠。対話に挑んでいるつもりで、対話になっていない状況に陥ることがあるとのこと。
1.気付くと迎合になっている
迎合とは、自分の考えを尊重せず相手の考えの通りに自らの考えや行動を変える。相手に隷属する。自ら気付いた課題意識や問題点を見ないようにすること、すなわち諦めを意味している。
一方、対話とは、相手との違いを前にしている「にもかかわらず」、相手との間に新たな関係を築く。
対話に挑むことを別な言い方をするならば、それは組織の中で「誇り高く生きること」です。つまり、成し遂げられていない理想を失わずに生きることも、もっと言うならば、常に自らの理想に対して現実が未完であることを受け入れる生き方を選択することです。
2.相手への押し付けになっている
“上司”といった権力が対話を妨げるのは、関係性が変わってしまうから。関係性が変わってしまえば、同じ言葉を発していても、相手のナラティヴの中では違う意味で受け止められてしまう。
3.相手との馴れ合いになる
対話を続け、新たな関係性を生成すべく橋を架ける。
橋が架かった相手とは非常に強い結束ができる。一方で、かえってこの関係性を大切にしたいという思いが必ず出てくる。
つまり、この関係性を維持すべく、言いたいことがいえない「抑圧型」の適応課題が生じてしまう。
したがって、何かおかしいという違和感が表出されることを恐れず、馴れ合いの結果排除される人が出たり、向き合うべき問題に向き合えていないことに気付いたら、それを変える行動を起こすべき。
4.他の集団から孤立する
「いい取り組みだけど、あのノリにはついていけない」といった言葉を陰に陽に言われるようなことがあった場合、「熱量の差」などと言い訳をせず、溝が発生していることを認識する。
また、このような状況ではチームの内側でもナラティヴの溝が生じている可能性がある。チームの特定のメンバーが仕切ってしまって、実は違和感を感じているのにメンバーが表明できない抑圧型の適応課題が生じている可能性が高い。
5.結果が出ずに徒労感に支配される
大切なのは、辞めたり、休んだりすること。
よく冗談交じりに「疲れた時には休んでください。大丈夫、適応課題はあなたが何もしなければなくなりませんから」と言うのですが、もしかしたら休むことで、適応課題が解消されることもあるでしょう。その時は、あなたが頑張りすぎていたことを意味しますし、それは今後のために大きな学びになるでしょう。
読後メモ
ブログの中では紹介できませんでしたが、本書の中には具体例や実践例も多く、概念理解としてもTipsのインプットとしても非常に収穫の多い本でした。
その中でも、個人的に興味惹かれた箇所(改めて自分がこういった観点に興味関心・引っ掛かりがあるなと気付いたこと)は、新しい関係性の構築は、孤軍奮闘、一人かかんに取り組むものではなく、周囲を巻き込みながら・協力を得ながら進めるものである、という内容。
例えば、溝に橋を架ける4つのプロセスの中の「観察」と「解釈」のパートで、以下のようなことが書かれています。
<観察>
観察には自分の味方になってくれたり、アドバイスや情報を提供してくれる人を見つけるのがポイント。逆に、こうした協力者にたどり着けないと観察はうまくいかない。
協力者にたどり着けないということは、どこかでまだ自分が、既存のナラティヴに囚われすぎている可能性があります。その場合は、準備段階が足りていないことを表しています。
焦りや不安、怒りなどが伴っていることが準備を阻害していることもありえます。それらの感情はとても大切なものですから、むしろ、それらマイナスの感情がなぜ芽生えているのかについてもう一度考えてみて、その上で、観察に取り組んでみることが大切でしょう。
<解釈>
解釈のプロセスは、信頼のおける仲間や相棒と一緒にやるとよいでしょう。さらに最低限、自分の頭の中だけで考えず、一度書き出すなどして、客観的に眺められるようにしてください。
そして分かったことがどういうことなのかを考えたり、観察で不足していたことが何なのかを考えて、もう一度観察のプロセスに立ち返ってみたりできると、とてもよい解釈の段階になるでしょう。
これを読んでいる中で、どこかで聞いたアフリカのことわざを思い出しました。
「If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together. 」
早く行きたければ、ひとりで行け。遠くまで行きたければ、みんなで行け。
当然といえば当然のことなのかもしれませんが、「よし!やるぞ!」モードに入った瞬間に視野が狭くなり一人空回り癖のある私としては、目から鱗な内容でした。
※メモのメモ
ブログ冒頭にある、ハーバード・ケネディ・スクール上級講師のロナルド・ハイフェッツさんのNHK白熱教室・ハーバードリーダーシップ白熱教室の映像をYouTubeで観ました。
この中で、リーダーシップとは「変革を乗り切れるよう支え続けること」「人々に問いを立てて、データを提供し考えさせて、過去から未来へと効率的に移行させるための枠組みとプロセスを提供する」「そして変化と試練とで満ち溢れている世界で成功する新しい伸びしろを提示する」「れは、歴史とどうやって折り合っていくかということになる。」という話がありました。
上記のお話しや、それ以外でも本書に書かれている内容とも通じる箇所があり、本書の理解を深めるうえでも、少しインプットの幅を拡げるうえでも、こちらの動画は本書と合わせて観ると良いかもしれません。
沖縄科学技術大学院大学(OIST)弾丸見学
論文の質が高い研究機関のランキングで世界9位、日本では東大を抑え1位の沖縄科学技術大学院大学。
参考:NEWS PICKS
帰省の合間に少しだけ見学できたので、(搭乗待ちの間に)写真だけ残しておきます。
入ってすぐに目につくのは「ビレッジセンター」と呼ばれる、教員、研究者、学生向けのアパートが建ち並ぶエリア。
施設内に小さな街がある感じです。
駐輪場の向こうは海。
小さな公園も。
沖縄県民にはお馴染みの「ジミー」。
OISTグッズの販売もあります。
フィットネスジムやラウンジ、共同キッチンなど、教職員向けのコミュニティ施設も充実しているようです。
居住ゾーンを超えるといよいよ研究施設。
とにかく敷地が広い。
正面玄関から入ると最初に通る「トンネルギャラリー」。
施設内の写真等が展示されています。
TEDもやってるんですね。
トンネルギャラリーを超えると無骨なエレベーターが現れます。
これに乗って、ラボやカフェがあるセンター棟へ向かいます。
エレベーターからの景色。
ラボには入れなかったのでカフェに立ち寄ってみました。
電源があれば一日中居座りたい。
開放感のあるテラス席。
ラストオーダー時間を超えており、買えたのは米粉パンのみ。
カフェからラボへ少し歩いてみることに。
置き傘?からも感じるイケてる感。
建物全体、曲線が印象的。
廊下に張り出されている研究者の紹介。
パンフレットもらって帰ります。
毎年開催されている『サイエンスフェスタ』は、研究者と地元民との交流の場になっているようで、多くの人で賑わうそうです。
ガイド付きキャンパスツアーもあるようなので、次回は申し込んでみたいものです。
「F8Meetup」参加メモ
Developer Circle Osaka主催、F8参加報告会「F8Meetup」に参加しました。
※F8とは、年に1回開催せれるFacebook社の Developer向けカンファレンス。
Meetupで共有のあった内容は大きく3点。
- 「F8」について
- 「F8」と同時期に行われた「FacebookDeveloperCirlceのLeadサミット」について
- シリコンバレー、サンフランシスコ現状報告
「F8」について
「カンファレンス」と聞くと、“学術・技術系” か “アイデア・サービス系” のいずれかの内容を想起しますが、F8は後者がメイン。
参加者はエンジニアだけではなく、ビジネス領域の方々も多くいらっしゃったそう。
そこで話されたkeynote speachの概要や展示ブースの雰囲気、あとFacebook社を見学されて感じた雰囲気など伺えたので、以下に記載します。
パーティーのような雰囲気
ブースでは実際にプロダクトを体験できる。
keynote speechの概要・展示ブースの雰囲気
今回のMeetupで共有のあった内容は以下の通り。
デザインの刷新
実際にFacebookを利用されている方はお気付きかもしれませんが、青々したデザインから、白基調のデザインに刷新されています(デザイン刷新は数年ぶり...というお話だったような...)
デート機能
色々と話題になった機能。最大9人の人たちと出会いの機会が創出される(かも)というもの。
『portal』のリリース
離れた人たち(例えば家族)ともつながることができるコミュニケーションデバイス。親しい人たちとの関係性をより強めることができる。
目玉は「通話機能」「カメラ」で、例えば通話中に席を離れてもカメラが追従し、コミュニケーションが分断しない。
『Instagram』の機能拡張
クリエイターが(例えば身に付けている洋服の)商品のタグ付けを直接つけることができるように。
こちら、後で調べて分かったのですが、マネタイズ観点で非常に大きな機能拡張のようです。
※記事内の以下は上手な建付け(三方良し:インスタ良し・フォロワー良し・クリエイター良し)だなぁと
むしろ重要なのは、クリエイターが身に着けているのは何か、それはどこで売っているのか、といったような質問が何度も繰り返されるのを防ぐことだという。
『Oculus Quest』のリリース
OculusはFacebookのVR開発部門が開発・販売するVRヘッドマウントディスプレイ。そのシリーズ最新プロダクトの紹介。
PC不要。本プロダクト単体でVR体験ができるため、写真のように自由に動き回ることが可能で、遊び方の幅が増えるとのこと。
Facebook社の雰囲気
実際に社内見学をされた感じたことなども共有いただきました。
印象的だったのが、社員のマーク・ザッカーバーグに対する信頼感。
Facebook社では、マーク・ザッカーバーグに直接質問をする場が頻繁に持たれおり、その質疑応答の内容やスタンスに触れることで、「(ここまで考えているんだ)やっぱり彼はすごい」となるようです。
FacebookDeveloperCirlceのLeadサミット
ざっくりとは、世界各国のコミュニティのリーダーの集まり。
リーダー同士で、各コミュニティでの取り組みや、運営するうえでの悩みやノウハウのシェアがされるそうです。
印象的だったのは韓国の話し。
実際に話をした韓国のリーダーは他にもエンジニアコミュニティを掛け持ちしており、FacebookDeveloperCirlceとの親和性が高くシナジー効果がある(と、韓国のリーダーが言っていた)という話や、当日ハッカソンが行われていたそうですが、出場権を得た人たちの出身地では韓国は20名(※日本人は1名)と多く、「韓国はプログラミングが強い」という印象を持たれたそう。
シリコンバレー、サンフランシスコ現状報告
続いて、実際にシリコンバレーを訪問した感想やシリコンバレーの状況について共有いただきました。
F8とは別のイベント。Google主催のカンファレンス「Google I/O 2019」
感想は...
- 街を歩くと二人に一人はアジア人(目についた範囲で)
- 国際色豊か
- 有名企業のオフィスは田舎街にあるので注意しないと見落としそう
- ライドシェアをよく目にする(実は今、景観・事故の観点で問題になっている)
- AmazonGoやっべーぞ etc...
実際にシリコンバレーを訪れて感じたことまとめ
充実した教育機関
現地の大学を見学する機会もあり、実際に訪問して感じた雰囲気や、現地の学生から聞いた情報なども共有いただきました。
日本人留学生の多くは東大・慶応・早稲田出身レベル(ですよねー)。
学校の運営方針が特徴的で、学生からのフィードバックを積極的に取り入れ、その声をどんどん改善に活かされるそうです(日本とは大きく異なる?)。
社会問題
サンフランシスコの都市価値が上がる一方で、土地代・物価の高騰や格差の拡大、治安の悪さなどがあり、住民の53%が移住を真剣に考えているとか( “テクノロジーがもたらす不便” という話の切り口が、個人的にはとても刺さりました)。
最後に(Meetupに参加してみた感想をつらつらと)
最近、会社で海外視察に行かれた方の話を聞いて、何となく海外に興味を持ったことが参加動機でした。
なので、少し前なら参加しなかった類のイベントですが、参加して良かったなと感じました。
新しい情報に触れるとそれをトリガーに他のことにも興味を持つようになるし、今回のような“体験談”系はネットやニュースで見るより頭に入ってきやすい気がします。
加えて、新しい情報に触れると、芋づる式?に別の情報にも興味を持つようになり、インプットの幅が増えていく感覚を覚えました。
具体的には、「シリコンバレーで起きている社会問題」という話を聞いて、以下のような記事にも目を通すようになったり。
別では、今回のMeetupは学生の方お二人が運営されていたのですが(うち一人は起業済み)、会全体に漂うフレッシュ感のようなものを心地良く感じていました。
単にお二人が若い...とうことではなく、自ら得た情報をすぐにアウトプットしたり、それに興味のある人たちがコミュニケーションをとる場をすぐに作っちゃうフットワークの軽さのようなものがとても良かったです。
Developer Circle Osakaでは「Google I/O 2019」の報告会も企画されているとのことでした。こちらも気になる!
※参考:「F8」について他メディアでもまとめ記事がありましたので、リンクを張っておきます。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1905/02/news019.html
https://ja.newsroom.fb.com/news/2019/05/f8-2019-day-1/
「Legacy Meetup Kyoto」参加メモ
Sansan主催の勉強会に参加。
非エンジニアでも多くの気付きが得られる勉強会でした。
技術的な話しはこのブログでは書けないので(不勉強ゆえ話しについていけず...残念)、詳細は登壇者の方々の資料参照ください。
▼加畑博也さん / Sansan株式会社
SansanはCMのイメージもあり何となく新しいイメージだけれど、実はそこそこレガシーなシステム。技術的負債に立ち向かった実例紹介。
▼山本寛子さん / ヤフー株式会社
全社的な技術移行プロジェクト。リリース直前にプロジェクトへアサインし、既存システムや業務知識を学びながら技術移行をしなければならない難易度の高さや、全社的プロジェクトゆえにハンドリングが効き辛いことの難しさなど、数々のハードルがありながらも、それらを乗り越えた体験談。
アプリケーションエンジニアながらも、インフラレイヤーのレガシーに立ち向かう「やる人いないから俺がやる」というマッチョな実績のお話し(自ら火消し役を買って出た一方で、果たして自分と同じことを他の人がするのか?そもそも全レイヤーを見る必要があるシステムってどうなの?と、次への課題出しもされています)。
登壇者の方々のお話しを伺って、感じたことは大きく3点。ヘンナニホンゴですが、以下のような感じ。
- やるかやらないかだけ
- やればやりようはある
- やれるように合意とる
やるかやらないかだけ
目の前にある技術的負債に疲弊しながらも、色々な理由でレガシーシステムに着手できない。負債が自然解消することは無く、いつか絶対清算しなきゃいけない。でも出来ない(...のループ)。
もしそのような状況に陥った時、私がぱっと思いつくのは「やれない理由を潰していくこと」ですが、登壇者の方々のお話しは「やれる要素を積み上げていく」というものだったと理解しています。
加畑さんのお話しで言うと、レガシーな現状が何となく良くないのはみんな分かっているので、まずは今起きていることを計測・定量化して「見える化」し、課題に取り組めるような状況を作る。
對馬さんは、レガシーになった経緯を理解したうえで、解決のために何が必要かを洗い出す。そのうえで、必要なことを「(一旦)全部、自分でやる」。
課題が山積する中で、とりあえず走り出せる状況を作られていました。
やればやりようはある
プロジェクト終盤でのアサインとなった山本さんは、分からないことは、社内wikiを活用したり、他のチームの方を頼るなど(本家のgithubでissueを挙げていた人が実はyahoo!の社員さんだったとか!)、ご自身の置かれている環境をフル活用しつつ、何とかプロジェクトを推し進めていたそう。
また、マッチョ對馬さんは、巨大なレガシーシステムを目の前にするも「巨大だが、個々の問題は解決できる」と状況を認識し、これまでのエンジニアが残したドキュメントを参考に断片的な情報を紡ぎ、分からないことは詳しい人に聞きながら、ご自身の知見を溜めていったとのこと(「大体の問題は過去に事例がある」は個人的に目から鱗的名言)。
やれるように合意とる
ざくっとは周囲の巻き込み方の話ですが、これは加畑さんが分かりやすく言語化されていました。
ステークホルダー、開発メンバーとの合意はマストで、前者については正しい情報を挙げることに注力し、後者については「なんのためにやるのか」を繰り返し伝えることで、関わる人たちを巻き込んでいった、とのことでした。
伺ったお話を思い出しながら(感想)
自社開発と受託開発とでは前提が違うのかなと想像しつつ、レガシーシステムに立ち向かう皆さんのお話しに、非常に勇気付けられました。
その上で印象的だったのは、皆さん(?)楽しみながら難局に立ち向かっていること。
山本さんは、明示的に「新しい言語に触れることは楽しい」と仰っていたし、便利で新しい技術をキャッチアップすることで変化対応力も付くと仰っていました。
スキルや技術は陳腐化するもの(なので追いかけるのはナンセンス)、という言葉をどこかで聞いたような聞いてないような気がしますが、新しい技術を追いかけ続けることは純粋にワクワクするし、そのワクワクを尖らせることで、現状に満足せず(悲観せず)新しいことに前向きに取り組めるマインドやスタンスが身に付くのかなぁと感じました。
ぼんやりと、エンジニアの志向性に(改めて)触れることができた。そんな勉強会でした。
『日本進化論』読書メモ
社会課題(人口減少、超高齢社会、社会保障の破綻等)の共有。その解決のキーがテクノロジーであることが、具体的な施策案も添えて書かれています。
はじめに
よく見聞きする悲観的な未来予測。本当にそうなのか?
「平成の30年余りの間に日本は衰退した。」
「今後は斜陽国家として落ちぶれていく。」
よく聞く未来予測、本当にそうなのか?もう一度議論する必要があるのではないか?
確かに失われたものや反省すべき点はあるけれど、そこに囚われるあまり、今の日本が抱えている問題の本質や解決の糸口が意外なところに潜んでいることに気付き辛くなっているのではないか。
キーワードは「ポリテック」=ポリティクス(政治)+テクノロジー(技術)
ポリテックが目指すこと
政治とテクノロジーの融合が、今後人々が幸せに暮らせる社会を創るうえで重要になる。
社会課題の解決にはテクノロジーの活用は必須。政策が決められる過程で、政治・経済等の論点の中に「テクノロジー観点で見るとどうか?」を加える必要がある(医療におけるセカンドオピニオンのようなイメージ)。
なぜポリテックが必要なのか
理由は、テクノロジーの影響力の強さ。現代は、社会・政治・国際関係などあらゆる分野で、テクノロジーが破壊的なスピードで大きなインパクトを与える時代になっている。
例えば、都市部と地方の格差。都市部に人が集まる一方で、地方は人口が減少する状況で、両者の間が分断され格差に繋がっている。
具体的には、地方は水道や電気といったハード面や社会制度などのソフト面を維持するためのコストがどんどん増えていく。例えば、高齢者が数人しか住んでいない限界集落に東京と同じインフラを整備するのは効率が悪い。
ここでテクノロジーを上手く活用すれば、サービスを複製するためのコストが安くなり、地方への効率的なインフラ提供が実現する。結果、格差が是正できる(ex. インターネット投票)。
そういった、現状のスマホなどのコモディティハードウェア上で動作するソフトウェアテクノロジーは、ハードウェアへの大規模な投資が難しいという地方のハンディキャップを埋めてくれます。
喫緊の課題は「人口減」と「高齢化」。
それを解決するツールがテクノロジー。
- 通信:ダイヤルアップ→ADSL→光
- 無線:3G→4G→5G
- 装置:メインフレーム→ミニコン→パソコン→スマホ→エッジデバイス
- 母艦:サーバーサイド→クラウド
- 表層:パンチカード→CUI→GUI→Web→アプリ→エッジデバイス
- 知能:分岐→回帰と近似→特微量選定→特微抽出自動化
限界費用ゼロ化
これらのテクノロジーの進化が導き出す方向性は「限界費用ゼロ化」社会。
「限界費用」とは、財やサービスをある生産量から一単位多く生産するときに伴う、追加的な費用のことです。要はすでに開発や製品が終わっているプロダクトやコンテンツを量産するときにかかる費用
限界費用の抑制は、以下3点で整理できる。
- 仕事のAI化
- 事業のプラットフォーム化
- インフラの再活用
仕事のAI化
ぱっと想起されるAIに代替される仕事の他にも、例えばイラストの着色といったクリエイティブ領域でもAIが代用する技術がすでにある。
事業のプラットフォーム化
プラットフォーム化とは、「場を作る」こと。例えばiPodはハードとコンテンツがセットになることで収益が上がりやすい状況を生み出している。他にもYoutubeは場作りのみでコンテンツは作っていない。
これは、顧客の囲い込みだけではなく、家賃や人件費などのコスト削減も実現する。
インフラの再活用
例えばSkype。ネットにタダ乗りしてサービスを提供する(自社でインフラを構築しているわけではない)。
これらの根底にあるのは、初期投資を可能な限り抑制し、人間の介在を減らすことで人件費を削減するという、ごくシンプルな発想。
労働の効率化
日本の課題「少子高齢化」。これに抗う鍵になるのが省人化と自動化。テクノロジーを活用して、これを進めるべき。
これまでの(工業生産を前提とした)社会は、労働を「標準化」することで回っていたが、今後は多様性を前提にした「パラメーター化」が必要になる。
パラメーター化とは、個々人の最適な形の解決策を適用することで、社会を回していくこと。
また、別では生産性の低さという問題もある。日本の生産性の低さは問題視されているものの、そのことに対するリソース投下が十分になされていない(未来の課題解決にに投資できない)状況にある。
リソース投下の課題は大きく2つ。
- シニア層と過去へのリソース投下があまりにも重く、未来に投資できない。
- インフラ投資があまりに重く、都市集中型の未来しか描けない。
前者について、家族で例えると、収入よりも多いお金を借金をしながら祖父・祖母に回し、若い人たちは「なんとかしのぎましょう」という状態。世代間の投入費用のリバランスが必要。
後者については、地方に対するリソース投下の問題。地方から都市にどんどん人口が流出する。そうなると住む人一人当たりにかかる公費は地方の方が多くなる(ex.東京都目黒区が一人当たり年間34万円、一方島根県海士町や気仙沼のそれは250万円)。結果、極端に都市に集中して生活するしかない都市セントリックな未来へ突き進んでしまう。サスティナブルな未来を創るには、このインフラコストをいかに下げるかが重要。
「働く」ことへの価値観を変えよう
「働き方」アップデートに対して障壁になる「固定化された価値観」
例えば「地方には仕事が無い」という地方と都市の格差への悲観や、不必要に複雑化された承認プロセスやデジタル化されていない固定化された価値観から生まれた業務環境(ex.行政)。そして「障がい者」。障がい者は仕事で自己実現出来ないという価値観が根強く蔓延っている。
「固定化された価値観」が生まれた背景
20世紀に形成され、機能したもの。終身雇用を前提とした「安定のレール」が全員の幸福を保証いていた時代に生まれたもの。
これは高度経済成長といった長期にわたる業績右肩上がりが前提なので、GDP減少傾向にある現状にはそぐわない。
終身雇用・年功序列制の限界
しかしこの価値観は、実は半世紀程度の歴史しか持たない。戦後の工業を基礎とした社会では、労働者の多くが同一のインフラに乗り、同じ信念を持ち、同じ方向に成長していくことが生産の効率化とコスト最小化に効率的だった。
しかし、工業化から情報化への転換を契機に、この価値観が立ち行かなくなっている。
社会変化の3つのキーワード
そのような社会変化の中で、重要なキーワードは3つ。
- 限界雇用ゼロ化
- インフラ撤退社会
- ダイバーシティの実現
限界費用ゼロ化
「限界費用」とは、財やサービスをある生産量から一単位多く生産するときに伴う、追加的な費用のことです。要はすでに開発や製品が終わっているプロダクトやコンテンツを量産するときにかかる費用
昔は限界費用と限界効用を天秤にかける必要があった。その結果生まれたのが画一的なデザインによる大量生産(=効率化)。
しかし、所謂情報化社会の到来により、ソフトウェア産業・インターネット産業では、全てのことが簡単にコピーできるように。結果、生産手段の民主化が進み、生産者と消費者の境界が曖昧になる。
インフラ撤退社会
過疎化が進む村落では巨大インフラの構築・維持は無理。個別の状況に応じた最適なサイズのインフラに置き換える必要が出ている。ネットワークインフラさえあれば、地方でも不自由なく暮らせることができる。
ダイバーシティの実現
ここで言うダイバーシティ(多様性)とは、
性別・人種・年齢・障がいまでを含めた、幅広い人間のあり方を受け入れるという意味です。
テクノロジーの発展が多様性を促進する。これまでも、メガネのようにテクノロジーで身体能力を拡張してきたが、今はさらにそれぞれの状況に最適化された技術的サポートが可能になっている。
例えばコミュニケーションロボットの『OriHime』
テクノロジーの補助が介在することで、障がいもある種のパラメーターの違いに過ぎない状況になり得る。
労働環境は「AI+BI」と「AI+VC」に二分される
一部の地域に偏って投下されている多額の公費を、均等に再分配かつ各地域の人口に応じて個別最適化された規模でインフラが提供できれば、ある種のベーシックインカムのような再分配の仕組みが生まれる可能性がある。
AI+BI
そうなった時、多くの人はAIの指示の基、人機一体となって指示に従い、短時間の簡単な労働をするようになる。これが「AI+BI」的な働き方。
例えばUberのビジネスモデルとベーシックインカムの組み合わせ。地方の交通インフラとして重要な役割を担う自動配車サービスにベーシックインカムの資金を投下するかたち。
事業単体での黒字化は難しくても、料金が低ければ雇用も生まれ、公共的なインフラの役割も担える。
AI+VC
社会を発展させるためのイノベーションに取り組む働き方。ごく少数の人が担う。
両者は対立しない
これは、ある課題にアプローチする際の役割分担。ビジョンを具体的なアクションに落とし込む人と、そのアクションを忠実に実行する人。
どちらが優れているということではなく、どちらも必要(落合氏も両方やっている)。
大切なのは、組織の論理に囚われず、コストを最小化し利潤が最大化されるよう、個々人の判断で動くこと。
本書では、以下2つの理由から「高齢者ドライバー問題」が例に取り上げられています。
3つのアプローチ
この問題を3つのアプローチで解決する
- ドライバー監視技術
- 自動運転技術
- コンパクトシティ化
事故の直接的な要因は高齢者の身体的・認知的能力の低下にある。その解決には状態を常時チェックする①のシステムが重要だし、②③が有用なのも言わずもがな。
孤立した子育てから脱却するために
次に子育ての問題。いま子育てをしている親の状態は「アノミー」である。「アノミー」とは、社会の中で排他性が強まり、帰属性が消失すること。
核家族化により、社会と個人の距離が遠くなることで、子育てがしにくくなってしまっている。
解決の方向性は2つ。
- 手が空いている人に子どもの面倒を見てもらう
- 隣人と共同で子育てに携われる地域コミュニティの再構築
例えば、高齢者が勤労者を支えるという発想の転換。
一般的に、小学校の6年間が大変なので、ここを行政や企業がサポートすることを目指してみてはどうか。
今の教育は生きていくために大事なことを教えているのか
現在の日本の高等教育は、標準的な知識を効率的に詰め込む「標準化」を目的としたもの。
そんな中、世界中の教育機関が学生数から教育環境、研究分野から産業収入に至るまで、あらゆる観点から順位付けされる World University Ranking 2019では、東京大学が42位、次いで京都大学が65位。それ以外は100位以下。日本の教育は先進国とは言えず、この現状を打破する必要がある。
日本の教育革命のための重要な指針は、教育の「標準化」から「多様性」へのシフト。
求められる学び方は大きく2点。「リカレント教育」と「Ph.D(博士学位)の教育」。
リカレント教育
社会人の学び直しと、キャリアの促進・転換を促すための教育。
Ph.Dの教育
過去に事例の無い問題を自ら設定し、その解決を考えるスタイル。言われたことを学ぶのではなく、「自分は今、何を学ばなければいけないのか」を客観的に考えながら問題を解いていく。
一方でこの実現は一朝一夕にはいかない。現実的には段階的にシフトしていくかたちで、Ph.D的な学習と従来の詰め込み型学習を両立させる。
具体的には、大学入試が終わった時点でこれまでの勉強の価値観を全て捨てる「アンラーニング」。これを経ることで、「あらゆる前提は偽の可能性がある」という懐疑的なマインドセットを身に付けることができる。
本当に日本の財源は足りないのか?
社会保障費は本当に増え続けているのか?
財政問題における最大の懸案のひとつが社会の高齢化に伴う社会保障費の増大。
新聞などによると、社会保障費は2040年度に190兆円、2018年の1.6倍になると報じられている。
しかし慶應義塾大学・ 権丈善一教授によると、これは誤報。将来の社会保障給付費は対GDP比で見るべきであると。
対GDP比で見ると、2040年度のそれは、現在の1.1倍。際限なく拡張して制度が崩壊する、といった一般的なイメージとは異なる。
社会保障費の対GDP比の増減
将来への変化予測を見ると、2000年から2040年にかけて 15%から 24%に急増している。
但し、詳細を見ると2000年から2010年が急増。2010年以降はなだらか。2025年以降再び増加に転じるも、15年間で1.11倍程度と、その変化は穏やか。
▼出典:東洋経済ONLINE
ポイントは「医療」と「介護」
前出の2025年以降増加する2~3ポイント程度の負担を上手く解消できれば、少なくても現状維持は可能。
社会保障費の内訳。社会保障費のうち「年金」「医療」「介護」「子ども・子育て」の占める割合をみると年金と医療の占める割合が大きいことが分かる。
▼出典:東洋経済ONLINE
将来的な変化として、年金は微減傾向、子育ては現状維持。増加するのは医療と介護のみ。
これからの20年、この2つのコストを抑える施策が重要になる。
ICTテクノロジーの導入でどれだけ人件費を抑えられるか。介護作業の完全自動化は難しいため、介護を補助し効率よく進める仕組みの構築が現実線。
『Telewheelchair』
digitalnature.slis.tsukuba.ac.jp
具体的な取り組みの一つが「Telewheelchair」。車椅子一台につき介護士一人が付き添う非効率さを解消するためのもの。自動運転と遠隔操作がキー技術。
実際に現場で試運転を重ねると、介護される当事者のお年寄りからは高評価だそう。
政府系投資機関の活用
一方でマクロ視点から見ると、テクノロジーによる省人化と自動化は財政にとって良いことばかりではない。
人間が担ってきた業務が機械に代替されると、所得税による税収は減少。それによりデフレへ向かう可能性もある。
加えて、企業の業績は上向くが法人からの税収にそれが反映されるかは未知数。
そのため、これからは税収で財政を支えるのではなく、政府系投資機関を通じて、国と企業がイノベーションの成果を分け合う発想が必要。
具体的には、テクノロジーによる省人化・自動化に成功した企業は市場における優位性が確立され株価が上がる。政府系投資機関はそこに投資し利益を得る。これにより税収とは別の財源を確保できる。
すでに年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などが存在するものの、今後は投資先企業の選定について、将来を見据えたより高度が判断が必要になる(単純な営利目的の投資は行うべきではない)。
デンマークの事例
一方で税収を増やすことも重要。日本とよく似た人口構成比のデンマークは、高齢化社会でありながら、(日本とは違い)経済成長を実現している。
実現の要因は「産業構造の転換」と「行政の効率化」。
産業構造の転換
製造業が主要な日本とは異なり、デンマークでは主要産業を流通・小売業へと転換し始めている。ゼロからモノを作るのではなく、既製品に価値を付与する産業へシフトしている。
行政の効率化
テクノロジーの活用、ビッグデータの活用。医療分野の電子化などを推し進めている。
日本の根底にある「シルバー民主主義」
実はこれが根深いのでは?と落合さんは投げかけます。
60歳以上が有権者全体の約4割を占める歪な構造。「テクノロジーへの投資をします」というよりも「介護保険料を安くします」と言った方が受け入れられやすい実情があるり、未来への投資がし辛い状況にある。
人生100年時代の「スポーツ」の役割
最後にスポーツ。今、スポーツの目的が変化している。これまでは「身体的な健康の増進と娯楽が目的」だが、これからは「ストレス解消、コミュニティ形成、予防医学的効果が目的」となる。
そんな中、我々日本人は「忙しい」「場所がない」といった理由から、なかなか運動をしない傾向にある。
その解消には、所属する組織が運動・スポーツのための時間を強制的に確保し、運動の習慣を制度として生活の中に組み込むことが考えられる。また、場所の問題はパブリックスペースの整備を急ぎつつ、VR・AR技術による空間の効率的な活用など、狭い空間でも運動が可能になるテクノロジーの活用が期待される。
最後に所感をつらつらと
本書最後「おわりに」の章で、落合さんは以下のようなことを書かれています。
依然として「若者を自由に」すること、すなわち未来への投資ができていないことが、僕は非常に悲しいのです。
繰り返し本文を通してお伝えしてきましたが、日本社会はポリテッックをテコに課題解決できる余地が数多くあります。
ポリテックを推進していくためには、日本全体にはびこる閉鎖的で後進的なマインドセットを変えていく必要がある
個人が備えるべきは、今までの常識+固定観念にとらわれない柔軟でフラットな視点
どれもポジティブで共感できるコメントばかり。
今後の社会のあり方が語られる際、少子高齢化をベースにした悲観論が多いのは事実だと思います。
しかし、本書ではまず事実を俯瞰的に捉え(事実がそうなるに至った歴史や経緯を正しく理解し、その背景にある“意味”を捉え)、その上で具体的な解決策が提示されています。
反射的に悲観を語るのではなく、テクノロジーを使ってそれをどうひっくり返すか。
落合さんのアプローチは、日本社会という大きなテーマは当然ながら、属するコミュニティあるいは個人といったレイヤーでも、日々生まれる課題ときちんと捉え、どう(好転に向けた)アクションをとるかといった、日常生活を送るうえでも有用な気付きを与えてくれるものでした。
「カンブリアナイト19京都」参加メモ
2019年二発目の参加イベントはカンブリアナイト。
テクノロジーやサービス提供者のピッチが、フランクな雰囲気で聞けるイベントです。
※カンブリアナイトの説明は、過去の参加ブログを参照ください!
今回は4名のスピーカーが登壇(中にはCES出展者も!)。
ピッチを聞いていたオーディエンスから支援・サポートを申し出る場面もあり、本イベントが目指す「新たなコラボレーションの可能性」を目の当たりにすることができました。
ピッチテーマ、登壇者は以下の通り。
- 「日本初の“母乳分析”サービス」荻野みどりさん(株式会社Bonyu.lab)
- 「ヘルスケアアプリのデータコミュニケーション」齋藤恵太さん(Goodpatch Anywhere 事業責任者サービスデザイナー)
- 「食の個別最適化の可能性」服部慎太郎さん(株式会社スナックミー)
- 「“リアリティ”のある触覚体験―認知科学の視点からー」平尾悠太朗さん(早稲田大学大学院)
※Facebookイベントページから抜粋
ブログでは4名のピッチを2名ずつに分けて紹介します。
本記事では、荻野さんと齋藤さんについてです。
母乳のクオリティをより良くするお手伝いをする『BONYU』
母乳の栄養素を科学的に分析し、ママに必要な栄養・食事のフィードバックがもらえるサービス。
ベースにあるのは母乳絶対主義ではありません。
せっかく生成される母乳のことをもっとよく知り、子育てサポートを目指すサービスです。
サービス概要はこちらの動画をご覧ください。
荻野さんのバックグラウンド
CEOの荻野さんは、ブラウンシュガーファーストというオーガニック食材をスーパーやコンビニなどに卸す事業も手がけられています。
こちらの事業は道筋が立っているためメンバーに運営を任せ、ご自身は新事業に取り組むべく『BONYU』を立ち上げられました。
CESに出展
毎年1月にラスベガスで開催されるCESにも出展されました(「母乳」というユニークな切り口もあり、会場では一定数の目を惹いていたのではと想像します)。
母乳育児の現実
海外でも母乳育児の関心は高く、アメリカでは2年間の母乳育児が推奨されているそうです。一方で出産後2ヶ月で職場復帰する方が多く、出産後半年経って母乳をあげられているママは22%しかいないのが現実。
比率こそは異なるものの、母乳育児ができない状況は日本も同じ。
実は誰も知らない「理想の母乳」
「母乳」に関する論文やデータは意外と少ないそうで、『BONYU』は科学的に数値化された「理想の母乳」を追い求めます。
「理想」は成分ベースで定義するのではなく、例えばママのライフスタイルや赤ちゃんの月齢・健康状態までもが考慮されたもの。
直近では、ママと赤ちゃんのライフログの取得を実現したい!とのことでした(まだモックアップですが、赤ちゃんのウンチの画像を撮り AIで分析する...という非常に興味深いお話も聞けました)。
正式版プロダクトのローンチ、さらに●●も!?
センシティブな内容も含まれるので詳細は伏せますが、正式版プロダクトのローンチ時期(※現在はβ版)や、さらなるマーケット拡大を目指したお話しも聞けました。
会場では、サポートに手を挙げる方との出会いもあり、今後の事業ブーストへの期待感が高まるピッチとなりました。
「ラバブル」なプロダクト&サービスデザイン
続いてGoodpatch齋藤さんのお話(「prott」いちユーザーとして、目を輝かせながら聞いてしまいましたw)。
選ばれるプロダクトをどうやってつくるのか?
キーとなるのは「直感的なUI」や「新しいUX」ではない。愛されるプロダクトかどうかの「MLP(ミニマム・ラバブル・プロダクト)」、最小限でLOVEなプロダクト。
「これじゃなきゃダメ」という言葉を、ユーザーからいかに引き出せるかが重要。
MVP的にユーザーを知り・プロトタイプを作り・FBをもとに検証を繰り返す...のは大前提。試行錯誤のスピード・量がポイントとのこと。
機能の要・不要ではない。ラバブルかどうか。
ラバブルとは、ターゲットがプロダクトを使った時に、そのプロダクトのストーリーに惹かれること。
「この機能は必要かどうか?」という議論ではなく、「これはターゲットにラバブルなのか?」という議論が必要。
齋藤さん曰く、MVPを作るのは実際には難しい。作り手の思いや意図がベースにあるため、ユーザーがコア部分の体験をすることを邪魔する無駄な離脱ポイントを作ってしまいがち。
そうなるとコア機能の検証ができなくなってしまう。
言葉を変えることの重要性
...とここまで話してきたけれど、実はこれは「MVP」等とやっていることは同じとのこと。
重要なのは「MVP」ではなく「MLP」に言葉を変えること。
そうすることで、前述した「ラバブルかどうか?」の議論が生まれ、より良いプロダクトを作り出すことができる。
最後に
お二人の話に共通しているのは「ストーリー」というキーワード。これは「何をするのか」では無くなぜするのか?大義は何なのか?インパクトはあるのか?ファンは増やせるのか?という観点だと解釈しています。
このことは、日々の業務だけでなく、個人のブランドが問われる昨今において、非常に重要なテーマだなと感じました。
おまけ
烏丸六角の事務所から京都リサーチパークまで、自転車シェアリングサービスの『PIPPA』を利用しました(初!)。
会社の近くに「ポート」(駐輪スペース)があったのですが、最初に訪れたポート付近ではポケットwikiの電波が届かず(電波の届くところまで自転車を運ぼうとしたら警報音が!そりゃそーだ)、別のポートを探すことに。
近くに別のポートを見つけ自転車を借りることができましたが、色々身の回りが便利になっているようで、実は「電波」と「電源」に支配されているなと感じました;涙
エストニア発のロボット技術教育ネットワーク「Robotex」日本支部 MeetUp参加メモ
2019年1月21日、KRPで開催されたこちらのイベントに参加。
Robotexとは
2001年にエストニアで設立した、教育をテーマにしたグローバルコミュニティ。
世界15カ国にリージョンを持ち、STEAM教育(特にRobotics)・アントレプレナーシップ教育に特化している団体です。
AI&Dronesを含むロボット教育とスタートアップトレーニングをテーマに、世界最大級のロボットフェスティバル「Robotex International」やロボティクス・アントレプレナーシップ教育を学べる学校の設立、教員養成プログラムの提供、スタートアップ支援や企業向けのプログラムの提供などを行っている。
※AMP記事より抜粋
Robotex Japanとは
Robotexの日本支部。あの孫泰蔵さんが Master Evangelist(!)。孫さんの運営するVIVITAが設立パートナー企業。
2018年秋から活動を始め、2019年から京都を活動拠点として本格稼動開始。
7月にはKRPでイベントも開催予定とか。
ミッション
現代の詰め込み型教育では、子どものクリエイティビティやアントレプレナーシップ(「主体性」という意味で使われていました)が育たない。これを解決するための場作りやコミュニティ作りをミッションとしています。
日本の課題にSTREAM教育・グローバルネットワークで立ち向かい、既存の枠組みを超えた人々の「共育」を通して創造力・協働力・実践力を高め日本の人材開発とイノベーションに寄与する。
コミュニティ形成を皮切りに、将来的には教育領域へのさらなる展開や、スタートアップアクセラレーションなどを目指します。
メディアパートナー『AMP』(アンプ)
イベントには『AMP』の編集長・木村さんも登壇されていました。
「知的好奇心を増幅させ、インスピレーションを与えるミレニアル世代向けビジネスメディア」を掲げるAMP。
「世の中にはシリコンバレーの情報が多く、それ以外の地域の情報が少ない」と感じていた木村さん。
そこでAMPでは、他国の情報も積極的に発信するように。具体的にはシンガポールやオランダ等に編集デスク設置し、特に注目していたエストニアについては連載を組んで注力的に発信されていたそうです。
さらに、エストニアについては、2015年4月に行われた新経済サミットでターヴィ・コトカ氏 (エストニア政府CIO 経済通信省事務次官補(ICT担当)※当時)のスピーチを聞いたことがきっかけで、木村さんご自身が興味を持つように。加えてエストニアの情報は近年増えていて、2017~2018年頃はスタートアップからの注目が高まったことも相まって、AMPのエストニアシフトはブーストします。
Robotex Japanとの出会い
エストニアに関する情報を発信している中で、色々と問い合わせや相談事が増えるように。
記事の情報を基に対応していたものの、もっと実情を知るため現地へ赴く必要性を感じ、木村さん自らエストニアに足を運ぶことになりました。
エストニアに到着し、移動中(だったかな?)に Robotex Japanの CEO・齋藤さんに偶然声をかけられたことがきかっけで Robotex Japanの存在を知るようになります。
エストニア滞在中の予定には無かったものの、急遽、世界最大のロボットフェスティバル「Robotex International Conference」に参加したり、設立パートナーのVIVITAを訪問するなど、齋藤さんたちと行動を共にすることになります。
その中で Robotex Japanの可能性を感じ、“実際にエストニアの熱狂を知る者”として正式にメディアパートナーになることを申し出、了承が出た末、今のパートナー関係になったそうです。
イベントに参加してみて
CEO・齋藤さん、Community Designer・ピォー豊さんが目を輝かせてプレゼンをされている姿が印象的でした。
齋藤さんが Robotex Japanに JOINすることになった原体験のお話しも聞けて、とても共感が持てました。加えて、メンバーの皆さんの“人を巻き込む魅力”のようなものを感じました。
欲を言えば、収益性(※)や持続可能性、ポジショニングの観点でもう少しお話しが伺いたかったのですが、タイムオーバーで少しだけ消化不良;汗。
(※)一般社団法人のかたちで運営されていて、政府・自治体の補助金?やハードウェア起業のCSR事業、大学の研究発表の場の提供などで収益を上げられているようでした。
とは言え、若い人たちが一生懸命事業に取り組もうとしている姿には非常に心が打たれました(歳かな)。
京都でもイベント開催予定とのことなので、色々参加してみたいと思います!