keita_shimabの日記

京都在住Webディレクターのイベント参加メモや読書メモなど。

『他者と働く』「わかりあえなさ」から始める組織論:読書メモ

知人に勧められた本がすごく良かったので、備忘メモを残します。

 

経営学者・埼玉大学 経済経営系大学院 准教授の宇田川 元一さんが書かれた、「『他者と働く』「わかりあえなさ」から始める組織論」という本。

 

ざっくりとは、人間関係で発生する分かり合えなさは「対話」することで克服できる。

対話のために自分の価値観や前提条件は横に置きつつ、相手には相手なりの価値観や前提条件があることを認識し、必要なプロセスを踏んでいくことで、分かり合えなさは克服できる。ということが書かれています。

 

組織にせよ知人・友人にせよ、家族やパートナーとの関係性にせよ、人が二人以上集まる状況で、「分かり合えなさ」絶対に発生する(と、私は思っています)。

そういう意味では、本書はどんな人にも参考になる情報が書かれている本だと感じました。

以下はだいぶ端折ったメモ書きなので、少しでもこのテーマに興味のある方は、ぜひ本書を手に取っていただければと思います。

 


2種類の課題

ハーバード・ケネディ・スクール上級講師でリーダーシップを研究しているロナルド・ハイフェッツ曰く、日常にある課題には2種類ある。


1つが「技術的課題」、もう1つが「適応課題」。

 

1つめの技術的課題は、既存の方法で解決できる問題。
2つめの適応課題は、既存の方法で一方的に解決ができない複雑で困難な問題。

ざっくりとは、前者は世に溢れる知識や技術で解決できる課題。

後者は、なかなか解決できない課題。しかも、私たちの社会が抱えたままこじらせている問題の多くはこれに属するもの。

 

 

課題解決の鍵は「対話(dialogue)」

見えない問題、向き合うのが難しい問題、技術で一方的に解決ができない問題である「適応課題」をいかに解くか ――― それが、本書でお伝えする「対話」です。

著者の言う対話とは「新しい関係性を構築すること」

 

それは、いきなり分かり合おうとすることではない。

新しい関係性を築いていくことであり、かつ少し手間のかかること。

 

例えば、社内で新しい取り組みを提案するも、腹落ちしない理由で拒否される。

そして提案した側は、拒否されたことに腹を立てる。
この時の相手との関係性は、「自分の提案を受け入れさせよう」というもの。
しかし、相手にも相手なりに一理ある。

もし、その相手の状況の中で提案が意味あるものにする必要があると考えられれば、その瞬間に関係性の変化が始まっている。この関係性の変化を、対話によってもたらすことが重要。

 

■対話の第一歩は「分かり合えないことを認める」

組織に問題があることは分かっている。けれど、どう向き合えばいいかよく分からない。そうするうちに時間だけが過ぎていく。
組織に属する人間であれば、よく目にする状況かと思いますが、より良い組織をつくるためには、もう一歩踏み込んで考える必要がある。

劇作家の平田オリザさんは、著書『わかりあえないことから』で、対話が日本で起きにくいのは、お互いに同じ前提に立っていると思っているからだ、と喝破しました。そして、お互い分かり合えていないことを認めることこそが対話にとって不可欠であると述べています。これは大変鋭い指摘です

 

互いに分かり合えていないことを受け入れたうえで、「知識の実践」を行うしかない。

 

■2種類の人間同士の関係性

哲学者マルティン・ブーバーは、人間同士の関係性を大きく2つに分類しました。

 

1つは「私とそれ」の関係性。もう1つは「私とあなた」の関係性。

 

1つめの「私とそれ」は、向き合う相手を自分の道具のようにとらえること(ex.レストランの店員さんに対して、一定の礼儀や機能を求めること)。
ビジネスにおいて、この関係性はよくあることで、立場や役割によって道具的に振る舞うことを要求する。
人間性とは別のところで道具としての効率性を重視した関係を築くことで、スムーズな会社の運営や仕事の連携を実現する(これ自体が悪いことではない)。

 

2つめの「私とあなた」は、相手の存在が代わりが効かないものであり、平たく言うと「相手が私であったかもしれない」と思えるような関係のこと。
例えば、困難な問題に挑むチームは、上司と部下という公式的な関係を超えた、ひとつのまとまりとして動いている。この状態は、「私とそれ」の関係性から、個々の違いを乗り越えて「私とあなた」の関係性へ移行したもの。

対話する上では、この関係性になることが必要。

 

■(改めて)「対話」とは

対話とは、権限や立場と関係なく誰にでも、自分の中に相手を見出すこと、相手の中に自分を見出すことで、双方向にお互いを受け入れ合っていくことを意味する。

 

 

一方的に解決できない4タイプの「適応課題」

適応課題には、4つのタイプがある。

共通するのは、どれもが既存の技法や個人の技量だけで解決できない問題であること。
もっと言えば、人と人、組織と組織の「関係性」の中で生じている問題。

各タイプの内容は、以下の通り。

 

1. ギャップ型
大切にしている価値観と実際の行動にギャップが生じるケース。
例えば、女性の社会進出が必要という大切な価値観はありながらも、実際ある時代までの男性にとっては都合のよかった男性中心の職場が形成されている。
この仕組みが短期的にはある部分で理にかなって機能してしまっているため、これを変える行動に出るのはなかなか難しい。
この問題はある種、合理的に発生している。

この状況を変えるためには、合理性の根拠を変えるような取り組みに挑む必要が出てくる。

 

2. 対立型
互いのコミットメントが対立するケース。

例えば、短期業績の達成をミッションとする営業部門と、契約が問題ないようにする法務部門。契約内容よりも目の前の売り上げを重視する営業部門と法務部門。どちらもお互いの合理性の根拠に即して、正しいことがすれ違うために、問題が起きがち。
合理性の根拠=枠組みの違いが対立を生んでおり、この解消に挑む必要がある。

 

3.抑圧型
「言いにくいことを言わない」ケース。
例えば、既存事業に将来が無さそうだとわかっているけれど撤退できない状況。
組織の中で、語れる範囲を広げていかなければ、適応課題に挑むことができない。

 

4.回避型
痛みや恐れを伴う本質的な問題を回避するために、逃げたり別の行動にすり替えたりするケース。
例えば、職場でメンタル疾患を抱える人が出たときに、ストレス耐性のトレーニングを施すケース。これは焼け石に水で、個別の能力レベルで対処できる技術的問題ではなく、職場の仕事の仕方や事業そのものが根本的に抱えている問題に着手しなければならない。

 

 

4つのタイプのどれもが取り組んでいない大事なこと

上記4タイプを俯瞰してみると、大事なことに取り組んでいない・できないという共通点がある。

それは、問題の立て方。

当事者は、自分の枠組みで物事を捉えている。自分の枠組みからは「相手の主張こそが問題に見える」(結果、相手がなぜそんなバカげた主張をするのかと考えるようになる)。

一度自分の解釈の枠組みを保留してみて、相手がなぜそのように主張するのかを考えてみると、相手には相手なりに一理あるということが見えてきます。「まぁ、言いたいことはわかるな」という感じにはなるでしょう

そうすると、相手が自分の主張を受け入れられるにはどうしたらよいか、という視点に立つことができるでしょう。

この一連の過程こそが対話であり、適応課題に向き合うということなのです。

 

つまり、自分の枠で物事を考えている限り、自分と他人とは「私とそれ」の関係性であり、対話は成立しない。

まずは、自分と相手とは枠が違うことを認識し、自分の枠を外し相手の立場に立つことが重要。その実現のための一連の流れが「対話」ということ。

 

...と、私は解釈しました。

 

 

変えるべきは「ナラティヴ(narrative)」

 

適応課題が見いだされた時、その第一歩目として、相手ではなく自分を変える。

何を変えるのか?の答えは「ナラティヴ」。

ナラティヴ(narrative)とは物語、つまりその語りを生み出す「解釈の枠組み」のことです。

例えば、ビジネスにおいては、「専門性」や「職業倫理」、「組織文化」などに基づいた解釈。

いくつか例を挙げると、部下と上司の関係。上司は部下に従順さを求める一方で、部下は上司にリーダーシップや責任を求める。それぞれが解釈に合わない言動をすると腹を立てたりする。

別では医者と患者の関係性。医者は患者を診断する対象として、患者は医者に対して自分の身体の問題を正しく治療してくれる「先生」として解釈する。

ナラティヴは、個人の性格を問わず、仕事上の役割に対して、世の中で一般的に求められている職業規範や、その組織特有の文化の中で作られた解釈に枠組みから生じるものです。

 

こちら側のナラティヴに立って相手を見ると、相手が間違っているように見える。逆もまた然り。

双方のナラティヴに溝があることを見つけ、「溝に橋を架けていくこと」が、対話である。

 

 

 「溝に橋を架ける」ための4つのプロセス(対話のプロセス)

自分と相手の間にあるナラティヴの溝(適応課題)に、橋(新しい関係性)を築く行為こそが、即ち対話を実践していくこと。

具体的なプロセスは以下4つ。

 

1. 準備「溝に気付く」

相手と自分のナラティヴに溝(適応課題)があることに気付く。

 

2. 観察「溝の向こうを眺める」

相手の言動や状況を見聞きし、溝の位置や相手のナラティヴを探る。

適応課題がどういう事情で発生しているのかを、よく見定めていくことがメインの取り組み(何が相手にとって大事なことで、困ることや、恐れていることは何なのか、相手の先には誰がいるのか?それをよく観察する)。

 

3. 解釈「溝を渡り橋を設計する」

溝を飛び越えて、橋が架けられそうな場所や架け方を探る。

こちら側の取り組みが、相手のナラティヴにおいても意味があるようにするにはどうしたらよいのかを考える。

 

4. 介入「溝に橋を架ける」

実際に行動することで、橋(新しい関係性)を築く。

準備と観察を重ねれば、橋を架けるための様々なリソースが見つかる。そこで、解釈の段階で橋の設計をし、介入する段階で初めて技術的解決ができるようになる。

 

 

 対話を阻む5つの罠

 対話に挑む中で陥りやすい罠。対話に挑んでいるつもりで、対話になっていない状況に陥ることがあるとのこと。

 

1.気付くと迎合になっている

迎合とは、自分の考えを尊重せず相手の考えの通りに自らの考えや行動を変える。相手に隷属する。自ら気付いた課題意識や問題点を見ないようにすること、すなわち諦めを意味している。

一方、対話とは、相手との違いを前にしている「にもかかわらず」、相手との間に新たな関係を築く。

対話に挑むことを別な言い方をするならば、それは組織の中で「誇り高く生きること」です。つまり、成し遂げられていない理想を失わずに生きることも、もっと言うならば、常に自らの理想に対して現実が未完であることを受け入れる生き方を選択することです。

 

2.相手への押し付けになっている

“上司”といった権力が対話を妨げるのは、関係性が変わってしまうから。関係性が変わってしまえば、同じ言葉を発していても、相手のナラティヴの中では違う意味で受け止められてしまう。

 

3.相手との馴れ合いになる

対話を続け、新たな関係性を生成すべく橋を架ける。

橋が架かった相手とは非常に強い結束ができる。一方で、かえってこの関係性を大切にしたいという思いが必ず出てくる。

つまり、この関係性を維持すべく、言いたいことがいえない「抑圧型」の適応課題が生じてしまう。

したがって、何かおかしいという違和感が表出されることを恐れず、馴れ合いの結果排除される人が出たり、向き合うべき問題に向き合えていないことに気付いたら、それを変える行動を起こすべき。

 

4.他の集団から孤立する

「いい取り組みだけど、あのノリにはついていけない」といった言葉を陰に陽に言われるようなことがあった場合、「熱量の差」などと言い訳をせず、溝が発生していることを認識する。

また、このような状況ではチームの内側でもナラティヴの溝が生じている可能性がある。チームの特定のメンバーが仕切ってしまって、実は違和感を感じているのにメンバーが表明できない抑圧型の適応課題が生じている可能性が高い。

 

5.結果が出ずに徒労感に支配される

大切なのは、辞めたり、休んだりすること。

よく冗談交じりに「疲れた時には休んでください。大丈夫、適応課題はあなたが何もしなければなくなりませんから」と言うのですが、もしかしたら休むことで、適応課題が解消されることもあるでしょう。その時は、あなたが頑張りすぎていたことを意味しますし、それは今後のために大きな学びになるでしょう。

 

 

 読後メモ

ブログの中では紹介できませんでしたが、本書の中には具体例や実践例も多く、概念理解としてもTipsのインプットとしても非常に収穫の多い本でした。

その中でも、個人的に興味惹かれた箇所(改めて自分がこういった観点に興味関心・引っ掛かりがあるなと気付いたこと)は、新しい関係性の構築は、孤軍奮闘、一人かかんに取り組むものではなく、周囲を巻き込みながら・協力を得ながら進めるものである、という内容。

 

例えば、溝に橋を架ける4つのプロセスの中の「観察」と「解釈」のパートで、以下のようなことが書かれています。

 

<観察>

観察には自分の味方になってくれたり、アドバイスや情報を提供してくれる人を見つけるのがポイント。逆に、こうした協力者にたどり着けないと観察はうまくいかない。

協力者にたどり着けないということは、どこかでまだ自分が、既存のナラティヴに囚われすぎている可能性があります。その場合は、準備段階が足りていないことを表しています。

焦りや不安、怒りなどが伴っていることが準備を阻害していることもありえます。それらの感情はとても大切なものですから、むしろ、それらマイナスの感情がなぜ芽生えているのかについてもう一度考えてみて、その上で、観察に取り組んでみることが大切でしょう。

 

<解釈>

解釈のプロセスは、信頼のおける仲間や相棒と一緒にやるとよいでしょう。さらに最低限、自分の頭の中だけで考えず、一度書き出すなどして、客観的に眺められるようにしてください。

そして分かったことがどういうことなのかを考えたり、観察で不足していたことが何なのかを考えて、もう一度観察のプロセスに立ち返ってみたりできると、とてもよい解釈の段階になるでしょう。

 

これを読んでいる中で、どこかで聞いたアフリカのことわざを思い出しました。

 

「If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together. 」
早く行きたければ、ひとりで行け。遠くまで行きたければ、みんなで行け。

 

当然といえば当然のことなのかもしれませんが、「よし!やるぞ!」モードに入った瞬間に視野が狭くなり一人空回り癖のある私としては、目から鱗な内容でした。

 

※メモのメモ

 

ブログ冒頭にある、ハーバード・ケネディ・スクール上級講師のロナルド・ハイフェッツさんのNHK白熱教室・ハーバードリーダーシップ白熱教室の映像をYouTubeで観ました。

youtu.be

この中で、リーダーシップとは「変革を乗り切れるよう支え続けること」「人々に問いを立てて、データを提供し考えさせて、過去から未来へと効率的に移行させるための枠組みとプロセスを提供する」「そして変化と試練とで満ち溢れている世界で成功する新しい伸びしろを提示する」「れは、歴史とどうやって折り合っていくかということになる。」という話がありました。

上記のお話しや、それ以外でも本書に書かれている内容とも通じる箇所があり、本書の理解を深めるうえでも、少しインプットの幅を拡げるうえでも、こちらの動画は本書と合わせて観ると良いかもしれません。